【コラム】米大統領トランプ氏なら安保の片務性にも影響か

2016年5月7日 10:27

 米大統領に就任後は日本に駐留する米軍駐留費用の全額を日本に負担するよう求めると米CNNのインタビューで意向を示したドナルド・トランプ氏(69歳)が、アメリカ大統領選挙・共和党候補の指名を確実にした。

 ニュースは日本のマスコミ各紙も当然、大きく取り上げた。米軍駐留費用の駐留国による全額負担、あわせて、これに応じなければ『出ていく準備をしなければならない』と駐留軍撤退に言及するトランプ氏が、米国民の一定の支持を集める事実を、米軍駐留の日本、韓国、ドイツ各国は冷静に見る必要がある。

 トランプ氏は日本だけでなく、韓国、ドイツに対しても駐留軍の全額負担を求める考えを示しており、理由は「世界の警察でいる経済的余裕はない」としている。

 トランプ氏の一連の発言から、日米安全保障条約はどうであったかと考えさせられることになった。

 安保条約第3条は「個別的及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を『憲法上の規定に従うことを条件』として、維持し、発展させる」となっている。

 外務省は「この規定は、我が国から見れば『米国の対日防衛義務』に対応して、我が国も、憲法の範囲内で自らの防衛能力の整備に努めるとともに『米国の防衛能力向上について、応分の協力をする』との原則を定めたもの」と解説している。

 「応分の協力」が『駐留費全額負担』になっていくのか、現行の「思いやり予算」(今年度から2020年度までの5年間の総額は約9465億円)でよいのか、その妥当性は、トランプ氏が大統領になった場合には日米間で協議することになるのだろう。

 同時に、トランプ氏が大統領になった場合には安保条約第3条の「憲法上の規定に従う」という条項を生かすなら、憲法改正を図り「限定のない集団的自衛権の行使が可能になるようにせよ」と迫ってくることが容易に推測できる。憲法改正ができないのであれば「憲法上の規定に従う」との条約の文言は削除せよと求めてきそうだ。

 根底にあるのは、日米安保条約の片務性という考え方だ。米国では上院、下院含め日米安保条約においての片務性(日本が第3国から攻撃を受けた場合、米国は日本を守るが、米国が第3国から攻撃を受けた場合、日本が米国に行き米国を守ることはない)ことから、双務性を求める姿勢が強くなっているようだ。

 アメリカの意識について防衛庁防衛研究所研究室長だった近藤重克氏は2003年当時すでに、「新しい国際環境下の日米同盟関係(戦略対話の必要とその前提条件)」とのレポートで「憲法による制約を理由に、日本が軍事色の強い安全保障上の役割を担うことに消極的なことは米国に不満を抱かせる要因になっている」と指摘している。

 日米安全保障条約は、戦争の放棄を規定する憲法第9条の下で、自衛に必要な最小限度の防衛力しか備えない日本が武力攻撃を受けた時、米国に守ってもらう(米国の義務)代わりに、米国には、日本と極東アジアの平和と安全の維持のため、米国の陸海空軍に日本の施設、区域を使用できるよう基地提供する義務を負っている(日米安保条約第6条)。

 つまり、米国の対共産主義戦略にアジアの地理的優位性を持って、沖縄を中心として日本は基地提供し、「思いやり予算」で米国に協力し、持ちつ持たれつの関係を強化してきた。

 その限りにおいて、現在の日米安保条約の内容は「米国のために血を流すことはない」が米国のために基地提供し、協力金を出しており、経営学用語では「ウインウインの関係」といえると筆者は思っている。

 ただ、米国は日本が攻撃された場合に米国人は血を流すことになるかもしれないのに、米国が攻撃された時に日本人は血を流さないのか、これこそ片務条約ではないか、と憲法9条があるがゆえに、この壁を超えることができない。憲法9条が日米同盟の強化の弊害になっているとする受け止めも強いと言われている。

 さきの近藤重克氏はこのことは「アーミテージ・ナイ・レポートで明確に示されている」とし『日本の集団的自衛権行使の禁止は同盟協力を制約している。この禁止を取り除くことは、より緊密で、より効果的な安全保障協力を可能にするだろう。これは日本国民のみが下すことのできる決定である』としていることを紹介している。つまり、限定のない集団的自衛権の行使ができるように憲法改正を期待し、かつ、日米同盟をより『日米軍事同盟』にしようとしているといえよう。

 双方が双方のために血を流す義務を負う、この日米軍事同盟での双務性をこそ、トランプ大統領が誕生した場合に求めてくるのではないかと懸念する。

 米国民が誰を大統領に選ぶのか、米国民の判断ではあるが、トランプ氏か、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官か、このふたりの対決になる見通しの中、日本国民としても、安全保障政策に大きな影響が予想されるだけに、11月の本選挙を注視せざるを得ない。

 合わせて、国内の政治勢力図がどう変わるのか。夏の参院選挙、『ダブル選挙』の可能性がゼロと言えない中、国内、国外で重要な選挙を迎えることになる。(編集担当:森高龍二)

関連記事

最新記事