【アナリスト水田雅展の銘柄診断】Jトラストは16年3月期黒字・増配予想、17年3月期も収益拡大期待

2016年4月20日 09:42

 Jトラスト<8508>(東2)は金融事業を主力として、国内外におけるM&Aや事業再編で業容を拡大させている。そして銀行業を中心とする持続的な利益拡大へのステージアップを目指し、特にインドネシアなどアジア地域での事業拡大を推進している。M&A・事業再編・不良債権処理などで収益が大幅に変動する可能性があるが、16年3月期黒字・増配予想である。そして17年3月期も収益拡大が期待される。株価は3月の戻り高値圏から一旦反落したが下値固め完了感を強めている。出直り展開だろう。なお5月13日に16年3月期決算発表を予定している。

■金融事業を中心に国内外でM&Aを積極活用して業容拡大

 国内金融事業(事業者向け貸付、消費者向け貸付、クレジット・信販、信用保証、債権買取)を主力に、国内外でM&Aや債権承継などを積極活用し、不動産事業、アミューズメント事業、海外金融事業などに業容を拡大させた。

 16年3月期から事業セグメントを再構成し、国内金融事業(保証および債権回収業)、韓国金融事業(銀行業、リース・割賦業、債権買取・回収業)、東南アジア金融事業(銀行業、販売金融業)からなる金融事業と、アミューズメント事業(アミューズメント施設運営、娯楽機器製造)、不動産事業(注文住宅建設、収益物件の仕入・販売)、その他非金融事業(ITシステム事業など)からなる非金融事業とした。

 従来の短期的なM&A型の事業拡大から、銀行業を中心とする持続的な利益拡大へのステージアップを目指して、国内外において事業基盤の強化に取り組む方針だ。特にインドネシアなどアジア地域での事業拡大を推進している。

■国内金融事業は新規ビジネスも推進

 国内金融事業では、日本保証(12年3月ロプロが武富士の消費者金融事業を承継、12年9月ロプロと日本保証が合併)、Jトラストカード(11年8月楽天KCを子会社化、15年1月「KCブランド」事業を譲渡、14年3月に子会社化した個品割賦事業NUCSの「NUCSブランド」事業を承継、15年1月Jトラストカードに商号変更、15年5月完全子会社化)などを傘下に置いている。

 15年3月にはJトラストベンチャーキャピタル合同会社が、SmartEbook<2330>の第1回無担保転換社債型新株予約権付社債および第6回新株予約権を引き受けた。企業ニーズに応えるファイナンス支援や事業支援などを通じて支援先企業の企業価値向上を追求し、グループ成長に繋げる方針だ。

 15年4月には選択と集中の観点から子会社クレディアの全株式を売却した。また15年4月には、日本最大のビットコイン取引所を営むBTCボックスの第三者割当増資を引き受けて同社を持分法適用会社化した。日本国内のビットコイン決済圏の確立、海外取引所の創設、新興国における新たな決済手段の構築、ビットコインを活用した新規ビジネスの創出を目指すとしている。

■韓国金融事業は総合金融サービス展開に向けた事業基盤整備が完了

 韓国金融事業では12年10月に貯蓄銀行認可を受けた韓国・親愛貯蓄銀行(15年7月JT親愛貯蓄銀行に商号変更)が、未来貯蓄銀行の一部資産・負債を承継し、13年1月韓国・ソロモン貯蓄銀行から、13年6月韓国・エイチケー貯蓄銀行から消費者信用貸付債権の一部を譲り受けた。

 14年3月には韓国・ハイキャピタル貸付および韓国・ケージェイアイ貸付を子会社化、14年8月には韓国・ハイキャピタル貸付、韓国・ケージェイアイ貸付および韓国・ネオラインクレジット貸付(11年4月子会社化)の貸付事業を韓国・親愛貯蓄銀行に譲渡した。

 15年1月には韓国スタンダードチャータード貯蓄銀行の全株式を取得(JT貯蓄銀行に商号変更)し、15年3月には韓国スタンダードチャータードキャピタルの全株式を取得(JTキャピタルに商号変更)した。これによって、韓国において総合金融サービスを展開するうえでの事業基盤の整備が図れたとしている。

 なおJTキャピタルは15年7月、住宅割賦金融債権の流動化(MBS)による資金調達(2000億ウォン=約214億円)を実施した。企業価値が韓国市場で認められ、従来のJトラストグループ依存から脱却し、今後の成長エンジンとなる資金調達方法の多様化が可能となった。

 15年10月には連結子会社のネオラインクレジット貸付およびハイキャピタル貸付の全株式を譲渡した。上記2社の正常債権は各貯蓄銀行に、不良債権はTA資産管理貸付有限会社に集中し、体制整備が完了したため株式譲渡を実施した。これによって上記2社は連結子会社から除外される。

■東南アジア金融事業はインドネシアに積極展開

 東南アジア金融事業では、13年12月シンガポールの子会社Jトラストアジアがインドネシアのマヤパダ銀行と資本業務提携、14年11月インドネシアのムティアラ銀行を連結子会社化(15年6月Jトラスト銀行に商号変更)した。

 15年5月にはJトラストアジアがオートバイ販売金融事業を展開するタイのGLの転換社債を引き受けた。またJトラストアジアの子会社Jトラスト・インベストメント・インドネシアを設立した。

 15年10月にはJトラスト銀行(インドネシア)の不良債権(約220億円)をJトラスト・インベストメント・インドネシアに譲渡するとともに、当社によるJトラスト銀行(インドネシア)が実施する増資の引き受け、およびJトラストアジアによるJトラスト銀行(インドネシア)が発行する劣後債の引き受けを行った。本件債権譲渡は当社子会社間の債権譲渡であるため連結業績への影響は軽微としている。

 なおJトラスト銀行(インドネシア)に関して、ウェストン関連法人によりシンガポール裁判所に15年10月16日付で訴訟が提起された件について、15年12月に状況をリリースした。モーリシャス判決に基づく債務および利息債務の支払いを求める内容だが、東京地方裁判所においてモーリシャス判決に基づく債務不存在確認訴訟を提起しており、当社の見解に変更はないとしている。

 15年12月には、15年5月に引き受けたタイGL社の転換社債の株式転換権を行使して発行済普通株式の6.43%を取得した。タイGL社はタイおよびカンボジアでオートバイ販売金融事業を展開し、インドネシアへの事業拡大を目指している。タイGL社を戦略的パートナーとして、インドネシアおよびASEAN市場でリース業およびコンシューマーファイナンス事業の成長を推進する。

 そして16年1月にはJトラストアジアが、タイGL社と共同でインドネシアにマルチファイナンス会社GLFIを設立(出資比率20%で持分法適用関連会社)し、インドネシアの消費者をターゲットとして割賦販売金融事業を展開すると発表した。

 なおアジアの不動産分野では、14年9月にシンガポールの不動産開発会社LCDの株式29.5%を取得して筆頭株主となったが、15年2月にLCDの大株主グループの1社であるAFグローバルが実施するTOBに応募して所有する全株式を譲渡した。

■非金融事業も強化

 非金融事業の国内不動産分野・アミューズメント分野では、アドアーズ<4712>(12年6月子会社化)を傘下に置いている。アドアーズは14年9月に韓国でカジノ事業を展開するJBアミューズメント(JBA)の第三者割当増資を引き受けて第2位株主となった。

 なおアドアーズは、14年11月に日本介護福祉グループを子会社化して介護事業に進出したが、15年8月に日本介護福祉グループの全株式を譲渡して介護事業を休止した。

■M&A・事業再編や不良債権処理などで収益変動

 15年3月期(日本基準)の四半期別推移を見ると、営業収益は第1四半期(4月~6月)159億28百万円、第2四半期(7月~9月)160億51百万円、第3四半期(10月~12月)161億41百万円、第4四半期(1月~3月)151億61百万円、営業利益は第1四半期3億58百万円の赤字、第2四半期22億74百万円の赤字、第3四半期6億89百万円の赤字、第4四半期18億96百万円の赤字だった。

 韓国・親愛貯蓄銀行で事業基盤強化に向けて積極的に不良債権処理を進め、韓国JT貯蓄銀行および韓国JTキャピタルの株式取得が遅れたことなどで営業赤字、経常赤字だった。純利益は負ののれん発生益計上で黒字だった。M&A・事業再編・不良債権処理などで収益が大幅に変動する可能性がある。

■16年3月期第3四半期累計は営業赤字が縮小

 前期(16年3月期)第3四半期累計(4月~12月)の連結業績は、営業収益が前年同期比20.4%増の579億47百万円、営業利益が21億08百万円の赤字(前年同期は33億21百万円の赤字)、経常利益が15億25百万円の赤字(同3億16百万円の赤字)、純利益が10億45百万円の赤字(同11億42百万円の赤字)だった。

 国内金融事業、韓国金融事業、投資事業の改善などで営業赤字が縮小した。営業総利益率は50.0%で同5.3ポイント低下、販管費比率は53.6%で同8.6ポイント低下した。営業外収益では為替差益が減少(前期30億14百万円計上、今期5億34百万円計上)した。特別利益では前期計上の負ののれん発生益10億42百万円が一巡したが、関係会社株式売却益6億01百万円、為替換算調整勘定取崩益8億30百万円を計上した。特別損失では減損損失が拡大(前期7億04百万円計上、今期11億02百万円計上)し、関係会社株式売却損2億85百万円を計上した。

 セグメント別営業利益(連結調整前)は、国内金融事業が同2.0倍の28億74百万円、韓国金融事業が55百万円の黒字(前年同期は42億30百万円の赤字)、東南アジア金融事業が57億73百万円の赤字(前年同期はなし)、総合エンターテインメント事業が1億18百万円の赤字(前年同期は4億21百万円の黒字)、不動産事業が同11.6%減の3億66百万円、投資事業が25億24百万円の黒字(前年同期は80百万円の赤字)、その他事業が1億40百万円の赤字(同1億41百万円の黒字)だった。

 国内金融事業はKCカード譲渡や構造改革などで人件費や利息返還損失引当金繰入額が減少した。韓国金融事業は営業収益の増加や前期に一時的要因として計上した債権売却損や貸倒引当金繰入額が減少した。東南アジア金融事業は財務健全化を図るため一時的要因として貸倒引当金を積み増したことや、Jトラストインドネシア銀行取得に係るのれん償却額が増加したことが影響した。総合エンターテインメント事業は前期取得したハイライツ・エンタテインメントの営業費用加算が影響した。不動産事業は前期大口売却の反動減となった。投資事業はJトラストアジアにおいて転換社債の評価益や転換時実現利益の計上が寄与した。

 四半期別の業績推移を見ると、営業収益は第1四半期(4月~6月)194億90百万円、第2四半期(7月~9月)182億88百万円、第3四半期(10月~12月)201億69百万円、営業利益は第1四半期19億51百万円の赤字、第2四半期3億84百万円の赤字、第3四半期2億27百万円だった。

■16年3月期通期(IFRS任意適用)は黒字・増配予想

 前期(16年3月期)通期の連結業績予想(IFRS任意適用、5月25日公表)は、営業収益が819億円、営業利益が75億円、純利益が47億円の黒字予想としている。なお日本基準の前期(15年3月期)実績は、営業収益が632億81百万円、営業利益が52億17百万円の赤字、経常利益が23億85百万円の赤字、純利益が101億43百万円の黒字だった。配当予想(5月14日公表)は前々期比2円増配の年間12円(第2四半期末5円、期末7円)で、予想配当性向は29.4%となる。

 なおセグメント別営業利益(IFRS基準、連結調整前)の計画は、国内金融事業が32億円、韓国金融事業が25億円、東南アジア金融事業が15億円、非金融・投資事業が6億円としている。東南アジア金融事業の不足分を国内金融事業および投資事業でカバーし、通期会社予想の達成を目指すとしている。

■中期経営計画で18年3月期ROE10.0%目標

 15年5月策定の中期経営計画では、中期ビジョンとして「既成概念にとらわれないファイナンシャルサービスを提供する企業を目指す」を掲げ、目標数値は最終18年3月期の営業収益1421億円、営業利益217億円、ROE10.0%としている。

 事業拡大が望めるアジアでの銀行業からの利益貢献を中心として、成長市場におけるIRR15%以上の投資案件をターゲットに3年間で500億円~1000億円の投資を目指す。また株式価値の最大化を経営の最重要課題の一つとして位置付け、株価が割安であると判断したときには機動的に自社株買いを実施する。

 国内金融事業では消費者金融事業を縮小し、不動産関連の信用保証事業および債権回収事業を拡大するとともに、M&Aを活用して新分野への進出を目指す。韓国金融事業ではグループ内の相互連携を通じて各事業を有機的に連携させ、債権残高積み増しと収益拡大に取り組む。東南アジア金融事業では、Jトラスト銀行インドネシアの不良債権回収事業の収益強化と財務健全性の向上に取り組むとともに、さらなるM&Aを推進する方針だ。

 中期成長に向けてM&Aや事業再編を活用したグループの事業基盤構築・強化に取り組んでいるため、当面はM&A・事業再編および事業構造改革に伴う一時的利益・費用の計上で収益が大幅に変動する可能性がありそうだ。ただし韓国事業の収益改善、東南アジアへの積極的な業容拡大、グループシナジーなどの効果で、中期的に収益拡大が期待される。

■自己株式消却して株主還元

 なお15年12月29日付で自己株式消却を実施した。株主への利益還元として、15年5月26日~11月11日に取得した自己株式625万株全てを消却した。

■株価は下値固め完了感

 株価の動きを見ると、3月の戻り高値圏950円近辺から一旦反落したが、2月安値668円まで下押すことなく下値固め完了感を強めている。

 4月19日の終値847円を指標面で見ると、前期推定連結PER(今期会社予想の連結EPS40円85銭で算出)は20~21倍近辺、前期推定配当利回り(会社予想の年間12円で算出)は1.4%近辺、前々期実績連結PBR(前々期実績の連結BPS1591円09銭で算出)は0.5倍近辺である。時価総額は約952億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえる形だが、下値は13週移動平均線が支えている。調整が一巡して出直り展開だろう。(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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