【インタビュー】ラグジュアリースポーツウエアを確立 ハイドロゲンCEOに聞くブランド戦略と日本のファッション市場

2016年4月14日 16:25

アルベルト・ブレーシ氏。表参道ヒルズ店オープンを記念して8日に行われたコレクションショーの会場で。

 イタリア発の「ハイドロゲン(HYDROGEN)」が3月、東京・表参道ヒルズの本館2階に、メンズ、レディース、キッズ、テニスラインのフルコレクションが揃う、アジア最大級のフラッグシップショップをオープンした。2003年にデビュー。ラグジュアリースポーツウェアブランドという新しいカテゴリーを確立して以来、本国イタリアをはじめ、日本やパリ、ニューヨーク、ロンドン、ドバイ、中国など、グローバル事業拡大に向けた動きにますます勢いがかかる。来日したアルベルト・ブレーシCEO兼デザイナーに、新店舗への思いや、日本のファッション市場、今後のブランド&事業戦略などについて聞いた。

品質へのこだわりやラグジュアリースポーツウエアという新しい提案が受け入れられた

ーーアジア最大規模のフラッグシップショップであるハイドロゲン表参道ヒルズ店をオープンした感想からお願いします。

「非常に満足しています。イタリアでも進めている新しいショップコンセプトを完璧に表現しています。また、ロケーションもすばらしい。これまでも10年近く表参道ヒルズで展開していましたが、場所を移転したことでよりいい場所になりました。何度か実際に来てみましたが、これまでのお客様に加えてフリーのお客様の来店も増えそうです」

ーー2014年にイタリアに新しいコンセプトのショップをオープンした時には5年間での世界的な出店計画とともに中国などアジアでの展開拡大も発表していました。今回アジア最大規模のフラッグシップショップをまず東京にオープンした理由は。

「おっしゃるとおり、ハイドロゲンにとってアジアは大事なマーケットですが、その中でも特に日本は非常に大切なマーケットになっているからです。現在、イタリアを除く海外市場として、日本は一番大きいマーケットであり、東京は最も大切な場所です。日本では三喜商事をパートナーに非常にいい結果が出ていますから、三喜商事と話し合い、出店を決定しました」

ーーハイドロゲンの世界展開の中でイタリア、日本、その他の比率は。

「正確な数字ではありませんが、イタリアと日本が全体のそれぞれ30パーセントから35パーセント。残りがその他という感じでしょうか。中国や韓国はスタートしたばかりなのですが非常にポテンシャルがあるマーケットであり、今後が期待できると考えています。ヨーロッパについてはオランダとドイツで新しいディストリビューターと契約し、展開をスタートしました。フランスも新しい展開を始めつつあります」

ーー世界的に展開しているブランドでも、日本では成功しているブランドと成功しないブランドがあり、日本は難しい市場だとも言われています。ハイドロゲンが日本の消費者に受け入れられている理由をどうとらえていますか。

「まず、第一に品質にとてもこだわっていることがあると思います。ハイドロゲンのデザインは非常にカジュアルですが品質は最高のものです。日本の消費者は品質やディテールに非常にこだわり、気にしていることを理解していますし、実際に日本で展開していてもそれを感じます。また、ハイドロゲンはラグジュアリースポーツウェアという今までに無いコンセプトを打ち出していますが、それも日本の市場にマッチしたのではないでしょうか。ラグジュアリースポーツウェアというのはまったく新しいセグメントです。コアになっている消費者は40歳前後の男性、ビジネスマンが多い。彼らは普段はスーツを着ていて、品質の良さもわかっています。そして、ファッションも好きです。モダンなテイスト、クオリティの高さ、着ていてリラックスできること、そのすべてをミックスした、彼らのライフスタイルに合った服が、ラグジュアリースポーツウェアという新しいセグメントであり、ハイドロゲンなのです」

ーー日本向けの服、日本市場を意識したデザインやアイテムはありますか。

「たとえばショップオープンに合わせたスペシャルエディション、限定商品のデザインを販売することは、基本的には世界共通です。店舗のデザインなども大きな部分は同じです。アイテムではアボカドシャツは日本もイタリアも両方いいですね。ただ、日本の場合、ジャケット、スーツ、コートなどの重衣料がよく動きます。イタリアの場合はTシャツなどカジュアルなものがいいです。消費者の好みの違いというだけでなくイタリアの方が経済状況が厳しく、服にお金をかけないということもあるのかもしれません。それに対して、日本のお客様は好きなものであれば高くても買っているようです。このショップも基本的なコンセプトや考え方は以前(表参道ヒルズの店舗と)変えたわけではありませんが、一番奥のフロアは以前よりもよりラグジュアリーなムードになり、スーツなどの重衣料をより打ち出していこうと考えています。これはミラノのショップでも行っていることで、日本を意識したわけではないのですが」

表参道ヒルズにオープンしたアジア最大規模の旗艦店

ーーヨーロッパと違い、日本は10代、20代の若い人たちがファッションをリードしています。日本の若い消費者への対応は意識していますか。

「おっしゃるとおりだと思いますが、特別に意識はしていません。幸いなことにハイドロゲンのお客様は10代から50代まで幅広く受け入れられています。スポーティなデザインやカジュアルなアイテムからスーツまでを提案しているからだと思います」

カスタマイズすることで新しい価値を生む 日本の市場は絶えずリサーチ

ーーところで、ブレーシさんはCEO兼デザイナーですが、日本のファッションをどう感じていますか。

「日本のファッションは好きですし、とても興味があります。他の国に比べてとても進んでいますから。私はアメリカにもよく行きますが、アメリカよりも進んでいると思います。北ヨーロッパやロンドンにも新しい動きはありますが、それと比べても日本の方が進んでいるでしょう。もちろん、イタリアのファッションはおしゃれで非常に進んでいますが、イタリアは一つのことに集中して突き詰めています。それに比べて日本のファッションはいろいろな要素を取り入れ、ミックスすることでおもしろいものを創り出しています。ハイドロゲンのお客様もハイドロゲンのコンセプトを自分なりにカスタマイズし、いろいろな要素をミックスすることでその人独自のファッションにしています。それはとてもすばらしいことです。私は日本の市場が好きなので絶えずリサーチし、ショップ巡りなどもしていますし、そこからインスピレーションを得てコレクションに取り入れたりすることもあります」

ーー着物からインスピレーションを得た服を作るデザイナーやカタカナなどをそのまま取り入れるブランドもありますが。

「服そのものからインスピレーションを得ることはありません。ボタンや縫い方などディテールを見て自分なりにどうしようかと考えることはあります」

ーー日本のブランドで好きなブランドは。

「ジュンヤワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS)が好きです。フィッティングにこだわり、いろいろな要素をミックスしています。もちろん、私と違い非常にアバンギャルドですが、その違いにとても惹かれます」

ーー日本で好きな場所、行きたいところは。

「沖縄と京都です。沖縄はバカンスで行きたい場所です。リラックスできますし、日本でありながらアメリカの要素も少しありますから」

ラグジュアリースポーツウエアで世界No.1目指す

ーー今後の世界展開や戦略については。

「将来的にはグローバルでインターナショナルなブランドにしていくことが目標です。そのためには今やっていることを続けていくことが一番の近道であると考えています。ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京に続きドバイにもショップを作りましたし、今後も直営店やフランチャイズでの出店なども計画しています。また、ラグジュアリースポーツウェアという新しいセグメントの中で世界ナンバーワンのブランドになりたいと思っています」

ーー最後に、現在はピッティ・イマジネ・ウォモにも参加していませんしミラノメンズコレクションでランウエーショーも行っていませんが、今後は。

「ピッティ・イマジネ・ウォモについてはイタリアのクラシックなブランドなら参加する意味があると思いますが、ハイドロゲンのようなブランドから見るとカジュアルについてはあまりいいブランドが参加していないので、参加する意味を感じていません。その代わりに、ミラノメンズコレクションの時期には毎回何らかの形でイベントを行っています。そちらの方が世界からプレスやバイヤーが来てくれますし、話題にもなりますから、今後も続けていきたいと思っています。ランウェーによるコレクション発表についてはハイドロゲンにとって次のステップだと考えています。ただ、それにはまだ時間がかかると思っていますし、現時点ではいつまでというところまではいっていません。それに、やるとしてもたとえばハイドロゲンにはテニスラインがあるのでモデルが歩いている間にテニスをするなど、従来のただステージを歩くだけのキャットウォークと言われるようなものにはしないでしょうね」

ーーブレーシさんはCEO兼デザイナーですが、ミラノメンズコレクションに参加する場合は外部デザイナーを採用することもありますか。また、今後のコラボレーションについてはどう考えていますか。

「靴のコラボレーションなどは考えていますが、今後も私がデザイナーであることに変わりはありません」

(取材:樋口真一)

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