細胞内カルシウムが眠りを制御する?
2016年3月29日 11:30
東京大学と理化学研究所の研究グループは、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにした。遺伝子改変マウスと薬理実験による世界で初めて実証だという。
ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠時間・覚醒時間は一定に保たれていることが知られているが、その本質的メカニズムはよくわかっていない。一方で、不眠や過眠などの睡眠障害は現代社会における重大な疾患の一つであり、精神疾患や神経変性疾患の合併症でも生じる。睡眠障害に対する診断法、治療法の開発には、睡眠覚醒のメカニズムを理解することが必要不可欠とされてきた。
研究グループは、高速に遺伝子改変動物を作製することができる技術(トリプル CRISPR法)と、高速に睡眠表現型を解析することができる手法(SSS)を開発。今回は、神経細胞のコンピュータシミュレーションにより睡眠時間制御因子を絞り込み、トリプル CRISPR法とSSSを組み合わせることで、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテアーゼⅡ(CaMKⅡ)をはじめとするカルシウムイオン関連経路が睡眠時間制御因子の役割を担うことを明らかにした。
さらに、遺伝子操作により睡眠時間が恒常的に増減する複数種類の遺伝子改変マウス(睡眠障害モデルマウス)の作製に成功した。モデルマウスは、睡眠時間の減少を示したり、顕著な睡眠時間の増加を示したりした。睡眠が減少したマウスの脳を透明化し、一細胞解像度で観察したところ、カルシウムイオンの流入阻害によって、大脳皮質の神経細胞の興奮性が上昇することがわかったという。
研究グループは、「睡眠障害と精神疾患、神経変性疾患との密接な関係から、これらの睡眠障害マウスをより深く研究していくことにより、精神疾患や神経変性疾患の原因解明、治療薬探索への貢献が期待される」とコメントしている。(編集担当:城西泰)