【コラム】大人も教科書を熟読しよう 検定チェックになる

2016年3月19日 23:39

 平成27年度教科用図書検定申請「高校教科図書」244点のうち、英語表現Iで申請取り下げのあった2点を除き、242点が合格した。表記などで毎回論議を呼ぶ「地理歴史」や「公民」も42点のすべてが合格した。しかし、その背景が気になる。

 教科書会社が必要以上に自主規制する結果になっていないか。一例はマスコミ報道でもうかがえる。

 毎日新聞は18日電子版で「実教出版の『日本史A』では、国旗掲揚や国歌斉唱について、現行版にある『一部の自治体で公務員への強制の動きがある』との記述が消えた」と報じ「文部科学省によると検定申請の時点で既になかったという」としている。

 また「東京都や大阪府が『一部の自治体で公務員への強制の動きがある』との表現を問題視し、現行版の使用に制約をかけていた」とも報じた。

「東京都と大阪府は(国歌斉唱に際し)起立・斉唱を拒んだ教職員を懲戒処分の対象にしている」とも報じている。卒業式や入学式で起立しての国歌斉唱が思想信条の自由に反すると国旗掲揚や国歌斉唱を強制され、思想信条を害されたと感じた公務員(教職員)がいたことは法廷闘争に持ち込まれる事実からも受け取れよう。しかし、教科書会社は表記を削除してきた。

 教科書採択に至るまでの各社間競争を考えれば、事実の表現も、問題視されたり、使用に制約をかけられたりすれば教科書採択や経営の論理も働き、自主規制が必要以上に強く働いてしまうのではないかと懸念する。

 そもそも検定意見そのものが、事実を歪曲させるものであってはならない。今回、集団的自衛権の行使容認をめぐる記述では政府の意向を色濃く反映させる結果になったと懸念しなければならない修正もある。

 清水書院の現代社会では「(憲法)第9条の実質的な改変」との見出しに対し、「あくまでも憲法9条の枠内。平和主義の論理が抜本的に改変されたと誤解を与える」などの検定意見がつけられ「自衛隊の海外派遣」に修正された。

 しかし、集団的自衛権の行使容認部分については憲法9条に反すると野党5党が現行の安保法制の廃止法案を国会に共同提出している。これを踏まえても、検定意見の「あくまでも憲法9条の枠内」と断定づけた点は政府の視点(主張)に則した指摘としか言いようがない。

 教科書会社も株式会社である以上、採択実績や経営の論理が働く。ただ、教科書内容がそのために時の政府の意向を反映させるような道具になってはならない。教科書が誰のためにあるのか、教科書会社のためでも、時の政府のためでもない。

 「幅広い知識と教養を身に付け、個人の価値を尊重し、能力を伸ばし、正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んじ、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与できる人格者」(教育基本法)になってもらえるよう、子どもたちのために作られなければならない。

 教科書の表記は歴史や事象について、それが自虐史的といわれるものであったとしても、時の政府に不利な事実であったとしても、学ぶ年齢において、より客観性の高い『事実』の表記を提示していくことが、正しい歴史認識や国際社会で正しい判断ができる人格形成につながる。

 愛国心を育てること以前の問題だ。そもそも、愛国心は育てるものではなく、自然に培われていくもので、押し付けるものでも、うえつけるものでもない。国家によるマインドコントロールは許されない。この問題は別の機会に取り上げたい。

 文部科学省は東京など全国7都県で、6月から7月にかけ、今回の高等学校用教科書に係る申請図書、調査意見書、判定案、検定意見書、修正表、見本、議事要旨及び教科用図書検定基準などを公開していく。

 また、今月下旬から教科書検定結果に関する情報を掲載し、全教科書の検定意見書をHPで順次閲覧できるようにする。教科書検定の在り方を、より公平公正、時の権力に左右されない制度にするには出来るだけ多くの国民が教科書に関心を持つことから始まる。是非、子どもたちの教科書を熟読しよう。(編集担当:森高龍二)

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