ショウジョウバエの危機回避行動が使い分けられる仕組みを明らかに―京大・寺田晋一郎氏ら
2016年3月13日 15:40
京都大学の寺田晋一郎博士後期課程学生・小野寺孝興博士後期課程学生らの研究グループは、ショウジョウバエの幼虫を用いて、体表をおおっている痛覚神経細胞が、二つの特徴的な神経活動パターンを介して個体の危機回避行動を巧妙に調節する仕組みを明らかにした。
ショウジョウバエの幼虫は、野外では天敵である寄生蜂の攻撃に襲われると、歩行速度を急上昇させる“ダッシュ行動”や、寝返りを繰り返すような“スピン行動”をとって攻撃をかわす。いずれの回避行動も、全身の体表に張り巡らされた痛覚神経細胞が活動することが引き金となっているが、どのようにして2つの行動パターン(“ダッシュ”と“スピン”)を個体が選択しているのかはわかっていなかった。
今回の研究では、感覚ニューロンに局所的な刺激を与え、 生理的な応答を高い精度で解析できる観察装置を準備した。この装置は、赤外線レーザーを備えており、有害な高温刺激をたった一個の痛覚神経細胞に与えることが可能となっている。そして、この装置を使って様々な強度の高温刺激を与える実験をおこなったところ、ある温度以上の高温刺激を与えたときに、通常の「連続的な発火」に加えて、特徴的な「繰り返し群発発火」が発生することを見つけた。
また、「繰り返し群発発火」が、細胞内のカルシウム濃度の一時的な急上昇によってうまく調節されていることを示した。さらに、最新の遺伝学と光遺伝学とを利用して、痛覚神経の発 火パターンを人為的に操作したところ、「繰り返し群発発火」を発生することが、 実際にスピン行動の選択に拍車をかけていることも明らかになった。
今後は、食害昆虫の回避行動パターンを詳しく調べることで、より効率的な防除計画を立案することが可能になる可能性があると期待されている。
なお、この内容は「eLife」に掲載された。論文タイトルは、「Neuronal processing of noxious thermal stimuli mediated by dendritic Ca2+ influx in Drosophila somatosensory neurons」。