ヒトiPS細胞からインスリンを出す膵島細胞の作製に成功 それ以外の細胞種への応用も検討
2016年3月11日 10:06
人体で唯一血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓内の膵島のみが産生・分泌し、血糖値の上昇に伴い放出される。膵島が障害を受けるなどの原因でインスリン分泌が枯渇すると、慢性的な高血糖(糖尿病)となり、この状態が続くと腎不全や網膜症、末梢神経障害などの合併症を引き起こすおそれがある。障害を受けた膵島は再生できないため膵臓・膵島の移植治療が行われている、ドナー不足が深刻な問題となっており、移植治療が思うように進んでいない現状がある。
この解決策として、ヒトiPS細胞/ヒトES細胞から、人工的に膵島を作製・利用する再生医療に大きな期待が寄せられている。一方で、正常なヒトは100万個ほどの膵島を持つとされており、移植治療に十分な量の膵島細胞を作製する方法や、品質のバラツキが少ない作製方法の開発などが課題として残されている。このような中、アークレイは、簡単かつ安全に高品質なヒトiPS細胞を培養する方法を検討し、2014年にヒトiPS細胞を1個から培養可能な流路型の超小型培養装置の開発に成功した。
このシステムは、培養皿を用いた従来の手法や大型の培養装置と比較し、(1)設置場所を問わないバッテリー駆動を採用、(2)培養液・廃液交換のポンプ稼動は専用プログラムによりスケジュール制御が可能なため、日々の培地交換作業が不要、(3)流路デバイス内での長期間培養維持が可能、(4)細胞応答の解析に応用が可能、といった特長がある。
システムは、培養環境を物理的に制御可能であり、同一構造を多数作成することで容易に培養規模を拡大することができる。現在、培地交換や温度管理、CO2濃度管理を全自動化した培養システムを開発中であり、大型化・自動化に加えて膵島以外の細胞種への応用も検討していく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)