【インタビュー】「プレイタイム」がクリエーションにこだわる理由――アートディレクターのマリー・チャプスカ氏
2016年3月3日 10:39
マリー・チャプスカ氏。「プレイタイム東京」のエントランスに展示された布立体作家・都築まゆ美氏による作品とともに。
東京、パリ、NYの3都市で行われているキッズ&マタニティー関連商品の合同展示会「プレイタイム」。会場を訪れて目を引くのが、旬なアーティストを起用したディスプレイやカタログ、インスタレーション展示など、細部まで目の行き届いた演出。単なるビジネスショーに終わらず、トレンドやクリエーションを発信する場を創出しているのが、同展最大の特徴でもある。3都市のアートディレクションをすべて統括しているのが、プレイタイム創始者の1人マリー・チャプスカ氏。2月23~25日に開催された「プレイタイム東京」のために来日したチャプスカ氏に、クリエーションへのこだわりや、自身が見据えるトレンドなどについて聞いた。
■写真に頼らない 独自のアートでインスピレーションを感じてもらいたい
――アート・ディレクターとしての仕事は?
東京、パリ、NYの3都市で行われるプレイタイムすべてにおけるビジュアルを手がけている。会場内のインテリアやトレンドスペースの監修、カタログ製作、イラストレーションの選定、それに付随する外部とのコミュニケーションに至るまで。出展者スペースを除くすべてのアートディレクションが私の仕事だ。
プレイタイムがほかの展示会と決定的に違うのは、写真によるビジュアルに頼らないところ。独自のアートやクリエーションによって、会場を訪れる人たちに強いインパクトやインスピレーションを提示したいと考えている。毎年1人のアーティストを選び、オリジナルのイラストを描き下ろしてもらうのもそのためだ。今年はフランス出身のアンヌ・ラヴァルを年間イラストレーターに選び、夏と冬の2シーズンのビジュアルを担当してもらった。
――毎回異なるアーティストがインスタレーションを展示する「トレンドスペース」も、プレイタイムの目玉になっている。
今回のコンセプト「不思議がいっぱい!(MARVELOUS!)」は、3つの幻想郷のストーリー「おとぎの冬物語」「フローズンワールド」「シュルレアリズムな幻想郷」がベースになっている。でもテーマが決まれば、あとはアーティストたちに自由にやってもらうのが私たちのやり方。プレイタイム東京では今回、加藤かおり、オレリー・マティゴ、高橋デビッドの3人にお願いしたが、それぞれの世界観が出ていて非常に面白いインスタレーションになった。
東京、パリ、NYそれぞれの展示会で異なるアーティストたちに作品を製作してもらうが、同じテーマでもそれぞれの解釈があり、また、各展示会の出展者のアイテムを取り入れながらインスタレーションを作り上げるので、それが各都市の展示会の個性やローカリティーにもつながっている。
――(共同経営者で弟の)セバスチャン・ドゥ・ユッテン氏は、プレイタイムがアートにこだわる理由として、モードとアートに密接なつながりがあることを強調していた。
それは、育ってきたという環境によるものが大きいと思う。セバスチャンも私も、小さい頃からファッションやアートに関わるクリエイターに囲まれていたし、そうした“生きたアート”を目の当たりにしてきたことで生まれた感性が、プレイタイムに注ぎ込まれていると思う。そうして形になったものが、バイヤーや出展者たちへのいい刺激になればと思いながら仕事をしている。
――毎回打ち出すコンセプトは、ファッショントレンドともリンクしている?
「プレイタイム」のトレンド・セッターを務めるジュリー・マレと話し合いながら決めているが、今の気分や好きなものなど、どちらかというと主観的な要素が強い。コンセプトを決めるときには、連想をしたり、雰囲気を作り上げるためのキーワードや言葉を大切にしていると感じる。 今回は、「不思議がいっぱい!」というキーワードから3つの方向性(ストーリー)が生まれた。
もちろん、トレンドがまったく反映されていないわけではない。トレンドの流れを誰よりも強く感じているマリーと決めているので、自然と取り込まれていると思う。影響されてはいるがされ過ぎない。ちょうどその中間地点を探りながら決めているといった方がいいだろう。
次回のコンセプトとしてすでに頭の中にあるが、「リ クリエーション(re creation)」という言葉。「re」は、“もう一度”、「creation」は、“創造”を示し、1つのものを再生したり、新しい価値を見出すといった意味が込められている。それに、2つの言葉をつなげると、“余暇を楽しむ”という意味の「リクエーション」になり、“楽しい時間”を意味するプレイタイムにも通じる。この2つの意味を掛け合わせてコンセプトをかためていきたい考えている。
アーティストたちによるインスタレーション作品は、「プレイタイム東京」の目玉の1つ。写真は、「不思議がいっぱい!~シュルレアリズムな幻想郷」をテーマにした高橋デビッド氏によるもの。
■手仕事の価値が見直される時代に
――マリーさん自身が今注目しているトレンドや関心を持っていることは?
経済にしても環境にしても、行くべきところに行き尽くしてしまった感覚がある。特にテクノロジーに関して私たち人類は今、これ以上にない最高のものを手に入れている。それを感じるからこそ、プレイタイムでも、エコやスローフード、時間をかけた手づくりのものなどを見直す動きが強まっていると言えるだろう。文明に背中を向けるというか、今の世の中全体とは違う動きが今後強まることは間違いないと思う。
今の生活は豊かだが、目先の利潤や消費追求型の生活にとらわれないことが大事だ。若い世代を中心に、情報化やデジタル化がますます広がっているが、今を生きることの楽しさやその方法を立ちどまって考え、提案することが求められていると思う。実は私の周りでも、そうした動きを感じる機会が増えている。ペーパーレスの生活を送っていた人が、あえて手紙を書いてみる。食事をする際には、携帯電話の電源を切って食べることに集中する。それも食材を厳選し、ゆっくりと時間をかけながら。
手作業で何かをやることの付加価値もますます上がってきている。先日、イラストレーターの友達が私を訪ねてきて言ったことがとても面白かった。作品を見せながら彼女が言ったのは、「これ、手仕事なの」。あえて言葉にするほど、手仕事であることはそれ自体が珍しく値打ちがあるものになっている。
だから日本に来てみると、手仕事で作られているものが多いことにいつも驚かされる。例えば日本の手ぬぐい。手づくりのものが日常品として当たり前に使われていることがとても新鮮に映る。フランスでは手づくりのものは贅沢品だし、日常的に使えるものが少ないから。日本は、手仕事によるものとテクノロジーによるもののバランスが素晴らしい。それから、時間の使い方もフランスとは少し違っていて、日本ではみんなで一緒に食事をすることをとても大切にしている。時間とものに対する捉え方が面白いと感じる。
――プレイタイムパリにもすでに日本企業が出展しているが、今後はさらに日本企業の海外出展が増えると思われる。アートディレクターの立場から、出展やプレゼンテーションで大切なことは?
プレイタイムが始まった頃は、自分のカラーをはっきり出せている出展者は少なかったように思う。だが今は、効果的に見せるコツをつかみ、ビジュアルに力を注いでいるブランドがとても多い。色や素材の選び方、デザインに至るまで、空間演出も洗練されてきている。同じ商品が演出によって引き立って見えるので、バイヤーたちにとってこうした努力はとても嬉しいこと。彼らは、商品だけでなく商品を取り巻く空気感にも価値を見出すものだから。
――プレイタイムは2014年、オンライン上のバーチャル展示会「プレイオロジー」をスタートした。アートディレクターとして、リアルな展示会「プレイタイム」との違いや難しさを感じることは?
「プレイオロジー」についても、ビジュアルコンセプトやグラフィックデザイン、レイアウトなどすべてのアートディレクションを手がけている。「プレイオロジー」においても年間アーティストを決めて、ウェブページの背景部分に7~8つの作品を掲載している。作品をクリックするとアーティストの紹介ページを見ることができる。アーティストに光を当てプロモーションするというのは、「プレイタイム」にはない「プレイオロジー」独自の取り組みだ。今は、モード・バントゥというアーティストの作品を紹介している。
――マリーさんが今後やってみたいことは?
とにかく時間がほしい(笑)。「プレイオロジー」についていえば、次シーズンから出展者のカテゴリーをキッズやマタニティーだけでなく、メンズ、レディス、ホーム、デザインを加えたライフスタイル全般に広げる。まず、今年中にレディスを本格的にスタートする。
今はどのブティックを見ても、例えばレディス服だけを売っているようなところは少ない。色々なカテゴリーと併せてライフスタイルを提案することが当たり前になっているし、私たちもそうでなければならないと考えている。
それに、時間を有効活用できるのが、「プレイオロジー」のいいところ。多くの展示会が存在するなか、バイヤーはよりたくさんの人と会い、よりたくさんの商品を見なければならない。「プレイオロジー」があれば、いつでもどこでもそれが可能になる。そう、しっかり食べて、自分の時間を作ることもできる(笑)。
■プレイタイム東京 公式サイト
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