【コラム】同一労働同一賃金 注視される安倍総理の本気度

2016年2月28日 14:05

 安倍晋三総理が多様な働き方を実現するためには「同一労働同一賃金」が必要との発言を随所で行うようになった。今月25日の海外機関投資家らの集まるCLSAジャパンフォーラム2016の講演で、安倍総理は「正規雇用と非正規雇用の壁を取り払います」と画期的発言をしている。

 安倍総理のこうした発言の背景には少子高齢化の人口構造がもたらす日本の国力低下を指摘する海外の目に対する、そうした懸念には及ばない。必要な政策を日本政府はとっていくとの発信があるようにも受け取れる。

 根拠の一端は「高い教育を受け、多くのポテンシャルを秘めた女性、元気で意欲にあふれ、豊かな経験と知恵を持っている高齢者が日本にはたくさんいる。こうした方々が労働市場で活躍できるように労働市場を改革していくことが安倍内閣の次の3年間の最大のチャレンジ」と質の高い労働力が眠っていること。これを生かせる労働市場にしていくことをアピールしたことからもうかがえる。

 そのためには多様な働き方を労働市場に導入する必要があり、その前提として「同一労働同一賃金」を確立することが、その後の労働市場改革を加速化できると判断したと思われる。安倍総理は「同一労働同一賃金に本腰を入れて取り組み、正規雇用と非正規雇用の壁を取り払います」と海外に発信した。

 この講演2日前に開かれた一億総活躍国民会議で安倍総理は「子育て世代や若者も、高齢者も、女性も男性も、難病や障害のある方々も、誰もが活躍できる環境づくりを進めるためには、働き方改革の実行が不可欠」と発言し、そのために「第一に同一労働同一賃金の実現」をあげた。

 安倍総理は「多様で柔軟な働き方の選択を広げるためには非正規雇用で働く方の待遇改善は待ったなしの重要課題」と発言し「雇用慣行には十分留意しつつ、躊躇なく法改正の準備を進める」と法改正に言及した。

 あわせて「どのような賃金差が正当でないと認められるかについて、政府としても早期にガイドラインを制定し、事例を示していく」と法改正やガイドライン制定のために専門家らからなる検討会を立ち上げ『不合理な賃金格差を禁止していく』方針を明確にした。

 こうした姿勢には、その結果を期待したいと思っている。非正規社員が働く人の4割を占め、収入は正規社員の6割にとどまっている。正規社員を希望しながら正規社員になれない労働者の正規社員へのシフトを支援する政策強化は当然ながら、非正規であっても正規社員と同一労働なら当然、同一賃金が支払われるよう制度を確立すべき。

 産業界では正社員の給与を変えずに非正規の待遇を改善すれば企業収益を圧迫することになると懸念する声があるが、もともと賃金の原資比率が低いというべき。企業の成果の社員への還元率を高めることがまず必要だ。

 企業経営陣は自らの保身につながることにもなるからなのか、株主総会対応のための株主への配当やリスク回避のための内部留保に「成果配分」を重視する傾向がある。正社員の待遇を低下させることなく同一労働同一賃金の実現を考えなければならないことはいうまでもない。

 もう一点、気になることがある。日本経済団体連合会の榊原定征会長は同一労働同一賃金に対し「正規、非正規などの雇用形態の違いで賃金に不合理な格差が生じているのであれば解消していくことを目指すべき」としながら「日本の雇用慣行に合った制度とすることが肝要」と強調している。

 榊原会長は「多くの日本企業は、その人の仕事の内容や責任の程度のみならず『期待』、『役割』、『転勤』を含む『将来的な人材活用』など様々な要素を勘案して、賃金を決めている」とし「同一の職務内容であれば同一の賃金を支払うという単純なものとするのではなく、雇用慣行を踏まえた議論が必要」と提起。

 そのうえで榊原会長は「安倍総理も日本の雇用慣行を尊重しながら、制度を設計していくと発言されている。経済界としては基本的な考え方について理解を得られており、同じ方向を見ていると考えている」とけん制とも受け取れる。

 現行賃金の在り方、雇用慣行が「日本企業の競争力の源泉の一つになっている」と榊原会長は重みを持たせた。転勤の有無や役割といったものは客観的な材料といえるが、企業が社員に有する「期待」といった抽象的概念で賃金格差が生じるようでは、企業裁量を自由に拡大させることになる。安倍総理がどこまで切り込んだ制度設計にたどりつけるのか、選挙前のパフォーマンスにならないよう、労働者の視点に立った本気度を期待したい。(編集担当:森高龍二)

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