【コラム】論戦前に現れた野田効果、安倍総理の決断
2016年2月20日 16:05
2012年11月14日の党首討論以来の野田佳彦前総理と安倍晋三現総理との論戦が19日の衆院予算委員会で実現した。その効果は論戦前に現れた。
野田前総理との論戦を午後に控え、安倍総理は午前の委員会で身内の質問(田村憲久前厚生労働大臣の質問)に答える形で、衆院議員定数10削減を断言した。
安倍総理は「定数10削減は必ず実現する。間もなく公表される平成27年の国勢調査に基づく区割りの見直しを行う際に、これに合わせて削減を実施する。平成32年の国勢調査まで先送りすることは決してしない」と答えた。
自民党の高村正彦副総裁がこの日の党役員会で「予算委員会で衆院選挙制度改革について安倍総裁の意志が示された」としたうえで「できるだけ安倍総裁の意志に沿った形で党内がまとまるよう、よろしくお願いしたい」と谷垣禎一幹事長に要請。谷垣幹事長は細田博之幹事長代行に意向を反映させる作業を依頼した。
平成32年の国勢調査を待って、33年、34年ころからの選挙に反映させる方向から大きく前進させることになる。
谷垣幹事長は記者会見で「安倍総裁は、やはりあの時の党首討論というものがかなりお気持ちのなかにあるのではないかという、これは私の推測ですから、あまり推測でこれ以上申し上げるのは控えますが、そう思います」と口にした。
そう推測するのが誰の目にも自然ではないか。急転直下の10削減の実現明言と実施の前倒しだった。安倍総理は「自民党総裁としてその方向にまとめていきたい」と踏み込んで言及した。
安倍総裁にとって、2012年11月の党首討論での、消費税引き上げ前の議員定数削減、身を切る改革の約束が果たされていない『契約不履行状態』で、再び、野田前総理と討論するのには形勢があまりにも悪すぎるということだったのだろう。
野党議員との国会論戦で、現在、最も嫌な議員が『野田佳彦前総理』であったとさえうかがわせる安倍総理の決断だった。
2012年末の総選挙で政権を譲ることになり、党代表を辞した野田氏ではあるが、民主支持層のみでなく保守層からも依然、その人望、政治家としての評価は高い。野田前総理を代表に、自民党選挙のノウハウを知り尽くしている生活の党の小沢一郎代表を幹事長に、岡田克也代表を代表代行に、維新の松野頼久代表を国対委員長に総選挙を臨めば、安倍総理・与党にとって嫌な選挙になるだろうと思った時期がある。先の総選挙で松野代表は安倍総理の標的にされ、重複で議席を守った苦い経緯がある。次回は巻き返しに燃えるはず。
政治の世界にも世代交代があるが、現在の自民党閣僚の相次ぐ不見識な発言や口利きによる金銭授受疑惑での辞任、自民党議員の国会議員としてはお粗末すぎる言動、素行による議員辞職や金銭トラブルでの自民離党などなど、政策以前に政治家としての品格の問題が大きな政治不信を招いている。
正直なところ、与野党問わず、政治家が政治家としての品格をそなえ、そのうえで、国民のためにどのような政策を打ち出すのか、世界の中の国家としての役割をどう果たしていくのかを提示して頂きたいと痛切に思う。
19日の野田前総理の質問には、先輩総理として現役総理への助言的な優しさも感じた。「数字と向き合う素直さをもってほしい。自画自賛はだめです。異論・反論に耳を傾けるように」。その通りだ。国民のため、日本のため、世界のため、手法はそれぞれに違うだろうが、政治家としての高い品性を持って、相手の提示する政策を理解しながら、より効果的な政策に高めていける与野党関係であってほしい。筆者は今でも野田氏が選挙で安倍総理に対抗できる有力な顔の1人と感じている。(編集担当:森高龍二)