粘膜の死細胞はアトピーや喘息の発症を促進させる―筑波大・渋谷彰氏ら
2016年2月20日 19:57
筑波大学の渋谷彰教授、小田ちぐさ助教らは、腸管・皮膚・気管といった粘膜の死細胞が、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、喘息の発症を促進することを明らかにした。この成果は、各疾患の新たな治療法の開発につながる可能性があるという。
腸管・皮膚・気管などの粘膜は上皮細胞で覆われているが、毎秒およそ100万個が死んでいく。その死んだ上皮細胞は、皮膚では垢、腸では便、気管では痰などとして排泄されていくため、これまでは特に何の役割もないと考えられてきた。
今回の研究では、先行研究の成果から、上皮の死細胞は単に排泄されるだけではなく、免疫細胞の細胞膜上に発現する「CD300a」というタンパク質を介して免疫細胞と結合し、何らかの働きを起こすと推測した。
そこで、CD300aの遺伝子を欠損させたマウスを作製したところ、免疫反応を抑制する働きを持つ「制御性T細胞」が有意に増加していることがわかった。また、粘膜上皮の死細胞とCD300aを発現する免疫細胞との結合を遮断すると、制御性T細胞が増加することも明らかになった。これらの結果から、死細胞とCD300aの結合が粘膜組織の制御性T細胞の数を制御していることが示された。
さらに、CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜組織で増加した制御性T細胞がどのような働きを持つかを調べたところ、炎症性腸炎を誘導した野生型マウスでは20%以上の体重減少が見られたのに対し、CD300a遺伝子欠損マウスではおよそ5%程度しか見らなかった。また、アトピー性皮膚炎、喘息モデルを誘導したマウスでも、野生型マウスと比較して、CD300a遺伝子欠損マウスは症状が軽かった。
これらの結果から、粘膜上皮の死細胞が、CD300aを介して、腸、皮膚、気管などの粘膜組織の制御性T細胞の数を減少させ、腸炎、アトピー性皮膚炎、喘息を促進していることが明らかになった。
今後は、CD300aの働きを抑制する薬を開発することで、潰瘍性大腸炎・クローン病・喘息・アトピー性皮膚炎といった難治疾患の革新的な治療に繋がることが期待できるという。
なお、この内容は「Nature Immunology」に掲載された。論文タイトルは、「Apoptotic epithelial cells control Treg cell abundance at barrier surfaces」(和訳:粘膜上皮の死細胞が粘膜表面の制御性T細胞の数を調節する)。