人は音のリズムの乱れを2種類のメカニズムで検知している―北大・大前、田中氏
2016年2月19日 12:28
北海道大学の大前彰吾氏、田中真樹教授は、人間が一定の音列の乱れを検出する際、テンポが速いときは音列をひとまとめに扱い、遅いときは一拍一拍を予測していることを明らかにした。
私たちは音楽のリズムの乱れにすぐ気づくことができる。これには時間の情報処理が関わっていると考えられるが、今回の研究ではその脳内機構の一端を簡単な心理実験で明らかにした。
実験では、一定間隔で短い音を繰り返し鳴らし、それが不意に一拍抜けたときに被験者にできるだけ早くボタンを押してもらった。音を鳴らす感覚を短くしていくと、約4Hz(刺激間隔250ミリ秒)より速いテンポでは、反応時間が短縮していくことが明らかになった。また、刺激間隔が最も短い25Hz(40ミリ秒)ときの反応時間は、連続音(途切れずになり続けている音)の休止を検出させたときと同程度となった。
また、一音ずつ片方の耳をランダムに選んで聞かせると、テンポが遅いときには刺激欠落をほぼ100%検出できるが、テンポが速いときにはほとんど気づくことができないことがわかった。これらの結果から、同じ音が短い間隔で繰り返される場合には、これらをグループ化して一連の音として扱い、その変化を検出しているものと考えられるという。
一方、左右の耳で異なるテンポを同時に聞かせ、どちらか片方の耳に起こる刺激の欠落を検出させると(二重課題条件)、テンポが遅いほど難しく反応が遅れることがわかった。刺激間隔が長い場合にはより高次なタイミング予測の機構が必要となるため、情報処理に時間がかかるものと考えられるという。
このように刺激の欠落を検出するには条件による違いがみられることから、脳はテンポによって2つの異なった神経メカニズムを使い分けていると考えられる。この傾向は視覚や触覚でも認められたため、刺激のグループ化とタイミング予測の神経機構の時間的な制約は、感覚種でほぼ共通であることが考えられるという。
今後は、研究を更に進め、小脳・大脳基底核・前頭葉・頭頂葉などが関与する計時と予測の神経機構を調べていく予定となっている。また、今回の実験と同様の課題を利用することで、小脳疾患や大脳基底核疾患での機能低下の程度を検査する方法が開発できることが期待されるという。
なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Two different mechanisms for the detection of stimulus omission」。