騒音性難聴のなりやすさに関係するタンパク質を発見―予防法の開発に期待=東北大・本橋ほづみ氏ら
2016年1月30日 16:05
東北大学の本橋ほづみ教授と防衛医科大学校の松尾洋孝講師の研究グループは、生体の酸化ストレス応答を担う制御タンパク質NRF2の活性が、騒音性難聴のなりやすさに関連することを発見した。この成果は、騒音性難聴を予防する手法の開発につながることが期待されるという。
騒音性難聴は、日常生活の中で強く大きな音を聞くことで聴力の低下をきたす状態で、近年、内耳の酸化ストレスの増大が騒音性難聴の主要な原因であることが明らかにされてきた。
今回の研究では、酸化ストレス応答や異物代謝などの生体防御機構で中心的な役割を果たしている転写因子NRF2を欠損したマウスに強大音を聞かせたところ、聴力の低下が顕著であることがわかった。
そこで、正常なマウスにNRF2の働きを強める作用がある薬剤を予め投与してから強大音を聴かせると聴力の低下が抑制されたが、一方、 NRF2活性化剤を、強大音を聞かせた後に投与しても、聴力の低下を防ぐことはできないことがわかった。さらに、NRF2活性化剤は、強大音を聞かせた後の内耳の感覚細胞死をほとんど完全に抑制していることがわかった。こうした結果から、NRF2は、酸化ストレス障害から内耳を保護することで、騒音性難聴を防ぐといえる。
また、このマウス実験の結果を受けて、NRF2の量と騒音性難聴のなりやすさがヒトでも関連するかどうかを調べたところ、NRF2が少なめになる一塩基多型を持つ人の方が、騒音性難聴の初期症状である4000 Hzの聴力低下が多く見られることが分かった。このことから、NRF2が少なめの人は、騒音性難聴になりやすい傾向があるので、特に注意が必要であるといえる。
今回の研究成果から、NRF2が騒音性難聴の発症と予防に重要であることがわかった。今後は、NRF2の量が少なめになるNRF2遺伝子の一塩基多型を持つ人に、強大音にさらされる前にNRF2活性化剤を投与することで、騒音性難聴を予防できるようになることが期待される。
なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「NRF2 is a key target for prevention of noise-induced hearing loss by reducing oxidative damage of cochlea」(和訳:転写因子NRF2は内耳を酸化障害から保護することにより騒音性難聴を予防する)。