京大がヒト体細胞がiPS細胞に変わる瞬間の可視化に成功
2016年1月10日 23:29
再生医療のけん引役として多大な期待がかかるiPS細胞。すでに、様々な疾患への適応への臨床実験も行われている。しかし、iPS細胞への再プログラム化は1万分の1以下の頻度でおこる再現性の低い現象であるという。このため、分子機構の解明は難しい課題として残されている。また、iPS細胞は単一細胞からのクローニングが困難であり、ゲノム編集を含む遺伝子改変技術応用による疾患モデル細胞の作製や病因解明の検証の障害になっている。
今回、京都大学の多田高再生医科学研究所准教授の研究グループは、ヒト体細胞からiPS細胞へ再プログラム化される中間段階にある幹細胞株、ヒトiRS(intermediately Reprogrammed Stem)細胞を新たに樹立した。また、ゲノム編集技術を応用し、ヒトiRS細胞の内在性OCT4遺伝子の下流にGFPレポーター遺伝子を挿入することで、ヒトiRS細胞がOCT4陽性の幹細胞(iPS細胞)に変化する瞬間を生きた細胞で可視化する事に成功したことを明らかにした。
新たに樹立した 、ヒトiRS細胞は、ヒト体細胞からiPS細胞へ再プログラム化される中間段階にある幹細胞株である。特性として、培養条件を変えることで、iPS細胞への再プログラム化を効率よく再開する、単一細胞からの増殖が可能で、ゲノム編集などの遺伝子操作技術の応用が容易である、などがある。ゲノム編集技術を応用し、ヒトiRS細胞の内在性OCT4遺伝子の下流にGFPレポーター遺伝子を挿入することで、ヒトiRS細胞がOCT4陽性の幹細胞(iPS細胞)に変化する瞬間を生きた細胞で可視化することに成功した。
研究グループは、ヒト体細胞とiPS細胞の再プログラム化の中間段階にある幹細胞株の樹立に成功した。この幹細胞株を iRS (intermediatelyReprogrammed Stem) 細胞と名付けた。ヒト iRS 細胞は、培養条件を変えることで、iPS 細胞への再プログラム化を再開する特性を持つ。ヒトiRS細胞は、単一細胞からのクローニングが可能である。ゲノム編集により、内在性OCT4遺伝子の下流に GFP レポーター遺伝子を挿入することで、ヒトiRS細胞(OCT4 発現オフ)がiPS細胞(OCT4発現オン)に変化する様子を生きた細胞で可視化する事に成功した。また、OCT4の活性化はiPS細胞化に必要であるが十分ではないことも明らかにした。
これらにより、ゲノム編集を含む遺伝子改変されたiPS細胞の作製が簡易になり、遺伝性疾患の病因解明や創薬開発に貢献するという。ヒト再プログラム化機構の解析を再現性良く行うことが可能になり、結果としてiPS細胞の品質の安定化に貢献するとしている。今後はヒトiRS細胞がiPS細胞に再プログラム化される過程での遺伝子発現やエピジェネティクスの変化を解明する。そして、ヒト iRS 細胞のゲノム編集により、新たな遺伝子改変 iPS 細胞を作製する方針だ。(編集担当:慶尾六郎)