細菌のべん毛は、スピンだけでなく旋回運動もしていた―東北大・下權谷祐氏ら
2016年1月6日 17:29
東北大学の下權谷祐児助教・石川拓司教授らの共同研究グループは、細菌のべん毛(細菌の表面から生えている細長い繊維)が、従来から知られていたスピン運動をしているだけでなく、スピンに加えて旋回運動もしていることを明らかにした。
大腸菌などに代表される「細菌」は体長が数マイクロメートル程度であり、体の表面からは、ぐるぐると螺旋を巻いた細長い毛が生えており「べん毛」と呼ばれている。べん毛の根元には「べん毛モーター」と呼ばれる回転装置が繋がっており、細菌が水中を泳ぎ回るために使用されている。そして、べん毛はこれまで、長手方向の軸を回転軸として、フィギュアスケート選手のスピンのような状態で回っていると考えられていた。
今回の研究では、独自のビーズアッセイと光学顕微鏡技術を駆使した実験中に、べん毛が奇妙な回り方をしていることを発見し、回転するコマが「旋回運動」をするかのように、べん毛が「スピン+旋回運動」の2軌道回転をしていることが明らかになった。
さらに、水中のべん毛挙動を詳細に解析したところ、実験で観察された「スピン+旋回運動」という特徴的な挙動の再現に成功し、スピンと旋回運動、それぞれに寄与するモータートルク(回そうとする力)・粘性抵抗(回りにくさ)・回転角速度(回るスピード)の関係を、流体力学の理論を用いて定式化することに成功した。この理論式から計算された回転角速度は、数値計算による詳細な解析結果とよく一致し、理論式の妥当性が確認されたという。
これまで、べん毛モーターの回転特性は、「スピン」という1軌道回転を前提として調べられていたため、今回明らかになった「スピン+旋回運動」という2軌道回転は、べん毛モーターの回転特性の研究に新たな視点を与えるものとなる。
また、べん毛モーターとべん毛との接続部を「フック」と呼ぶが、べん毛の2軌道回転はフックの力学的特性とも深く関係する。フックの力学的特性はこれまでほとんどわかっていなかったが、今回の成果が理解の進展につながることが期待できるという。
なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Torque-induced precession of bacterial flagella」。