第4世代「新型プリウス」の技術的エポックは数多い。PCU、バッテリー、そしてボディが3大ニュースか?
2015年12月10日 12:41
トヨタ自動車は、かねてよりモーターショーなどでティーザーキャンペーンを行なってきた同社旗艦ハイブリッド車4代目「新型プリウス」を正式に発表した。
発表前から伝えられたJC08モード燃費40km/リッターという驚異的な省燃費を標榜しているとしていたが、一部グレードのEタイプで実に40.8km/リッターを実現した。そのほかのFF車は、37.2km/リッター、今回新たに加わったAWDモデルは34.0km/リッターを達成している。新型は、トヨタ環境対応車を牽引するモデルとして、同社初のモジュール化技術「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」の考え方に基づいて開発された。
トヨタは、この新型プリウスで、ハイブリッドシステムの基幹部品を圧倒的に低コスト化することに成功した。電力変換に必要なインバーターやDC/DCコンバーターを搭載するPCU(パワー・コントロール・ユニット)は、デンソーなど系列サプライヤーと協働で、部品点数の削減や小型化で約30%の低コスト化を達成したという。
加えて、PCUなどを制御するパワー半導体にこれまでのシリコンから炭化ケイ素を使ったSiCパワー半導体をデンソーと共同で開発生産し投入、PCUのECU(電子制御ユニット)となる制御基板の集積化も図り、基板面積は31%削減した。PCU全体では12.6リッターから8.2リッターに小型化している。新型プリウスのPCUの製造は、トヨタの広瀬工場とデンソーが担当しているという。
搭載する駆動用バッテリーにも新機軸がある。新型「プリウス」では、新しいリチウムイオン電池とニッケル水素電池の2種類をグレードに合わせて採用した。バッテリーパックを小型化したのはいうまでもないが、セルの性能そのものを圧倒的に上げた。
プリウスとして初採用となる新しいリチウムイオン電池は、2011年5月発売の「プリウスα」で採用した既存品に比べて、セルを小型化したことで電池パック容積が6%小さくなった。新採用のリチウムイオン電池の開発は、セルからパックまでトヨタ。製造は、セルとモジュール(28セル)がプライムアースEVエナジー(PEVE)、パックがトヨタの本社工場だ。
一方、別グレードに搭載するニッケル水素電池は、2009年に発売した先代プリウスに比べて高い回生能力を持ったバッテリーだ。単位時間当たりの充電量は従来よりも28%多い。充電性能の向上は、車両燃費性能に0.5~1%程度寄与しているという。ニッケル水素電池の開発・製造は、セルからモジュール(6セル)、パックまでPEVEである。
なお、トヨタが従来モデルでも採用してきたニッケル水素電池は、これまでトヨタHVに連綿と搭載してきた結果、大量生産による高い価格競争力と圧倒的な信頼性の高さを備えている。新型に搭載したセル性能は、これまで以上にその性能は高められたという。リチウムとニッケルのふたつのバッテリー開発チームは、トヨタ社内で競い合っているとも。
新型はグレードによって駆動用電池を使い分けている。最廉価で(40km/リッター)の燃費スペシャルともいえる「E」、上級の「A」「Aプレミアム」はリチウムイオン電池を搭載し、標準の「S」と、各グレードの4輪駆動車ではニッケル水素電池を搭載する。
ふたつの異なった電池を同じ車種に搭載するために必要なのが、電圧や電池の出力を統一すること。新型ではニッケル水素電池を先代プリウスより高出力化しており、これに伴いリチウムイオン電池も「プリウスα」とは異なり、新たに設計し直している。
また、新型プリウスは、自動車としての基幹部分にも大きく手が入っている。新型プリウスのボディは「TNGA」の考え方に基づいて環状構造の骨格を採用した。ボディモノコックを組み立てるスポット溶接に加えて、スポット溶接よりも打点ピッチを短くできるレクサス車で採用し評価の高い「レーザー・スクリュー・ウェルディング(LSW)」や「構造用接着剤」を採用した。
LSWの採用で、ドア枠の4つのコーナー部分を中心に打点数を約30%増やし、軽量素材の採用などによって、ボディ捻り剛性は現行モデルよりも約60%向上したという。また、高張力鋼板やアルミニウム合金を多用することで、モノコックボディは先代モデル比で約60kg軽くなった。
新型の価格は、リチウムイオン電池搭載の40.8km/リッター好燃費を達成する「E」が242万9018円、同電池搭載の上級グレード「A」が277万7563万円、「Aプレミアム」が310万7455万円。売れ筋と想われるニッケル水素電池搭載車の「S」が267万3491万円。AWDはすべてニッケル水素電池搭載車で、FFモデルに比べて、約20万円のアップとなる。目標とする月間販売台数は、やや控えめな1万2000台/月だ。
パワーユニットや新たに加わった電気式AWDなどについての報告は、プレスインフォメーションや正式なカタログ(とくに注釈欄)を詳細に見て、「トヨタの常套ともいえる“隠れた情報”を探って」別項に改めるつもりだ。(編集担当:吉田恒)