他院の薬の処方に「おかしい」と感じたことがある医師は70%以上
2015年12月4日 14:50
高齢者が食間や食後、薬を取り出す様子を見たことがあるだろうか。まず、このような場面で驚くのは薬の量である。様々な種類の薬がそれぞれ違った病院名・処方薬局名が印刷された袋に入っているのを見て、「そんなに多くの薬が必要なのだろうか」と疑問に思った人も少なくないだろう。
高齢者は高齢ゆえに複数の疾患を抱えていることが少なくないため、薬が多量になる傾向はあるが、それでもやはり同じ成分の薬が重複して処方されるなどの「重複処方」や多量の薬が処方される「多剤処方」が散見される。
このような無駄をあらかじめ防ぐことはできないのだろうか。
医師の処方について、医療サイトを運営するQLifeが「医師から医師への疑義照会」と題してインターネット調査を行った。その結果、医師の同業者への対応の難しさなど、複雑な事情が明らかになった。
この調査は病院の理事長や院長、副院長、勤務医、250人を対象に2015年8月11日~8月18日の間に実施された。
まず、他院・他の医師の処方箋への疑義自体の有無であるが、「明らかにおかしい」と思ったことはあるか、という質問に対して、全体で74.4%もの医師が「ある」と回答した。
次に、「おかしい」と思った際に処方病院・医師への疑義照会や相談はしていますか、という問いには75.8%もの医師が「全くしない」と答えている。医師の年代別に見ても、「全くしない」と回答した率は30~40代が72.5%、50代が81.5%、60代が67.4%と、あまり大差がない。
結局、アンケートに答えた大多数の医師は「おかしい」と思っても「何もしていない」ということになる。「必ず照会する」と回答したのは1.1%のみだ。
多剤・重複処方は薬の無駄、という以上に薬の成分の相互作用による体への悪影響の心配もある。医学的・薬学的知識のない患者にとってみれば、「専門家なのにどうしてそこで指摘しないのか」と批判したい気持ちにかられる。しかし、医師にも事情と理由がある。
処方病院・医師への疑義照会や相談をしない理由について、アンケートでは「田舎なので関係がこじれると患者紹介先がなくなる」、「他院と患者がトラブルになるのを避けたい」、「医療訴訟の原因になりたくない」、「他院の先生に失礼だから」「診療が忙しくてかまっていられない」などの回答が集まった。
医師の世界という狭く・独特の環境、各病院の忙しさ、医療訴訟問題など、蓋を開けてみれば、そこには日本が抱える医療問題の縮図がある。
患者が医師と病院、薬剤師の世界とその慣例をすぐに変えることは難しい。しかし、患者側にもできることがある。臆せずに医師や薬剤師に相談することや、昔ながらの「先生、とりあえず薬をください」という姿勢を正すことから始めなければならない。(編集担当:久保田雄城)