脳の記憶を支える受容体輸送の機構を明らかに―東大・廣川信隆氏ら
2015年11月28日 21:38
東京大学の廣川信隆特任教授らの研究グループは、脳で記憶を支える「受容体輸送の脱線防止機構」を明らかにした。
神経細胞が興奮すると、シナプスでの情報伝達が変化し、その変化が記憶として残る。この時に主役として働くのがNMDA型グルタミン酸受容体で、KIF17という分子モーターによって微小管の上を運ばれ、シナプスに到達する。神経伝達と記憶の蓄積が効率よく行われるためには、NMDA型グルタミン酸受容体の輸送が正しく正確に行われる必要があるが、これまでこの輸送のサポートがどのように行われ、輸送の安定性が確保されているかについては、全くわかっていなかった。
今回の研究では、細胞内輸送のレールである微小管に結合しているMAPs(微小管関連蛋白)MAPsの中で、これまで機能が不明だったMAP1Aという分子に注目した。MAP1Aが脳内で働かないMAP1Aノックアウトマウスを作製して神経細胞を調べたところ、輸送中のNMDA型グルタミン酸受容体が微小管から脱線してしまい、その結果、シナプスに到達する受容体の数がたいへん少なくなっていることがわかった。
また、MAP1Aのない神経細胞では、記憶の形成や消去に必要な長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)といった現象が起こりにくく、MAP1Aノックアウトマウスは自分の置かれた状況や見たものを記憶することが非常に苦手であることもわかった。
これらの結果から、神経細胞の中では、輸送のレール(微小管)に脱線を防ぐしくみ(MAP1AとPSD-93)が備わっており、NMDA型グルタミン酸受容体を確実に輸送していることがわかった。このような生来のサポートシステムのために、動物は生存繁殖に必要な記憶のメカニズムを守ることができるもと考えられる。
今後は、本研究によって明らかになった受容体輸送サポートシステムに働きかける薬物や遺伝子治療の開発によって、記憶障害や統合失調症の新しい治療戦略が生まれることが期待される。
なお、この内容は「The Journal of Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Defects in synaptic plasticity, reduced NMDA-receptor transport, and instability of PSD proteins in mice lacking microtubule-associated protein 1A (MAP1A)」。