細胞は、栄養環境に応じてタンパク質の「生産工場」の量を調節する―NICT近重裕次氏ら

2015年11月23日 12:41

 情報通信研究機構(NICT)は、分裂酵母細胞を使った実験によって、細胞が周囲の栄養の状況に応じて、タンパク質をつくる「工場」のような働きをするリボソームを作る量を調節する仕組みがあることを発見した。これは、生物が環境に適応するために限られたリソースを効率よく配分し、増殖を自律的に最適化する能力の一端を明らかにしたものといえるという。

 現在は、DNAマイクロアレイなど、全遺伝子の発現レベルの計測が可能な技術を使用して、様々な生物種における多様な状態の細胞の遺伝子発現レベルの計測が行われている。しかし、従来、ゲノムワイドな計測では、低発現遺伝子の検出の精度を向上させる研究が多く、比較的容易に検出される高発現遺伝子の計測精度がおろそかにされる傾向にあった。

 本研究では、DNAマイクロアレイ実験条件を検討し、試料調整法や各反応の条件を最適化することで、高発現遺伝子レベルの計測精度の向上を図った。その結果、単に高発現遺伝子群と思われていたものから、「超高発現遺伝子群」と呼ぶべき遺伝子グループの存在を明らかにした。

 また、細胞内のすべての遺伝子に対してmRNAの量を調べたところ、リボソームタンパク質遺伝子から発現するmRNAの量は、ほかの遺伝子に比べて極めて高い値を取ることを発見した。さらに、分裂酵母細胞を増殖可能なぎりぎりの低窒素環境で連続培養し、その細胞状態を高窒素環境で培養した場合と比較したところ、細胞は、低窒素に応じて、やせる(減量する)ことで増殖の低下を最小限に食い止めようとしていることが示唆された。

 また、栄養源である窒素を少なくすると、通常は全体の46%以上を占めるリボソームタンパク質の発現量が、5割程度減少していた。その他の遺伝子も減少していたが、リボソームと比べると減少量は少なかった。これは、栄養源の大量消費者であるリボソームの生産を抑制することによって、ほかのタンパク質の生産を確保しようとする仕組みであると考えられる。また、細胞は、リボソームタンパク質と非リボソームタンパク質の合成割合を変動させることで、限られた窒素を有効に利用する仕組みを持つことを示している。

 今後は、本研究成果が、災害時等における電力や電話回線、インターネットなどのリソースを効率的に配分するシステムの開発にもつながる柔軟な情報通信システムへ応用できると期待されている。

 今回の研究成果は、Scientific Reportsに掲載された。論文タイトルは、「Cellular economy in fission yeast cells continuously cultured with limited nitrogen resources」。

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