カーボンナノチューブに光を照射すると、照射光よりも高エネルギーの蛍光が得られることを発見―京大・宮内雄平氏ら
2015年11月21日 20:28
京都大学の宮内雄平准教授・松田一成教授らの研究グループは、カーボンナノチューブに光を照射すると、一般的な経験則に従わない「アップコンバージョン発光」と呼ばれる珍しい蛍光発光現象が生じることを発見した。
物質に光を照射すると、照射した光とは異なる波長の光(蛍光)が放出されることがあり、一般的な蛍光物質では、放出される蛍光の波長は、照射した光の波長よりも長い(「ストークスの法則」と呼ばれる)。この法則に従わず、照射した光の波長よりも短い光が出る蛍光発光現象を「アップコンバージョン発光」と呼ぶ。
今回の研究では、直径0.8ナノメートル程度のカーボンナノチューブに1100~1200ナノメートル程度の波長の近赤外光を照射すると、波長が100~200ナノメートル程度短くなった950~1000ナノメートル程度の「アップコンバージョン発光」が得られることを発見した。
長波長(低エネルギー)の光照射によって短波長(高エネルギー)の蛍光が得られるアップコンバージョン発光は、いわば建物の1階から2階にボールを投げ入れたら、なぜか3階から戻ってくるようなもので特異な現象であるが、温度を変えながら行った実験の結果から、何らかのメカニズムにより、電子がさらに高いエネルギー状態に打ち上げられることが分かった。
また、蛍光の波長が照射光の波長よりも100~200ナノメートルも短くなるような大幅なアップコンバージョン発光が、室温条件下では通常あり得ないほど高い効率で生じるナノチューブ特有のメカニズムも突き止めた。
これまで、ナノチューブを用いた生体組織内部の発光イメージングには、1100~1400ナノメートルの蛍光が用いられていたが、この波長の近赤外光を捉えるには、高価な材料で作られた特殊なカメラを準備する必要があった。今回発見されたアップコンバージョン発光を利用すると、広く普及しているシリコン製の高感度CCDカメラで十分捉えることができる波長の蛍光を得ることができる。
研究メンバーは、「今回の発見は、これまで誰も予想すらしていなかったカーボンナノチューブの新奇な光機能が明らかになったという基礎科学的な意義を持つと同時に、カーボンナノチューブを用いた生体内部の発光イメージングや生体埋込型光バイオセンサーが、これまでよりも身近に、広く利用できるようになることに繋がるものと期待しています」とコメントしている。
なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「Efficient near-infrared up-conversion photoluminescence in carbon nanotubes」。