【作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術】「環日本海経済圏」と日本神話(上)

2015年11月20日 13:20

■地図を逆さに眺めると見えてくる裏日本の有望性

 ビジネスに求められる重要なものの一つが「逆転の発想」である。  今の日本は低成長が続き、少子化で先行きの見通しも良いとはいえない。この中、ぜひ見て欲しいのが通称「逆さ地図」(環日本海・東アジア諸国図)と呼ばれるものだ。日本列島そのものを逆転して示した地図である。まるで日本列島がユーラシア大陸、朝鮮半島とともに、日本海という大きな内海を囲んでいるように見えるだろう。

 「環日本海経済圏」という言葉がある。これは地理的に隣接している極東ロシア、モンゴル、中国東北3省、北朝鮮、韓国、そして日本を含む地域を指すものだ。日本海は各国を結ぶ動脈となる。  環日本海経済圏は、ロシア・モンゴルの天然資源、東北3省や北朝鮮の低廉な労働力、日本・韓国の資本と技術を相互補完的に組み合わせることで、大きな潜在力と成長性を秘める、と90年代から叫ばれてきた。

 特に「裏日本」と呼ばれてきた北陸、山陰はこのブロックでは主役となりうるわけで、活性化が十分期待できることになる。もっとも、政治的にも制度的にもハードルがあまりにも高く、体制構築は現状では始まってさえいない、というのが適切だろう。

 だが、結論から言おう。日本海の時代は遠くない。戦後の日本はアメリカに依存した、いわば太平洋の時代を過ごしてきた。東京一極集中はその象徴なのかもしれない。そのアメリカの影響力は緩やかに低下し、世界は多極化、多様化へ向かっている。その極の有力なものの一つがアジア、ユーラシアであり、「新シルクロード構想」であることは確かだろう。地政学的に日本海がクローズアップされるのは必然の流れと思われる。

 実は、古代から日本海を中心とした経済圏、文化圏は存在した。もちろん中国、朝鮮半島、九州、山陰、北陸、さらには東北、北海道、極東ロシアを結ぶ壮大な交易ネットワークであったと考えられる。

 『古事記』や『日本書紀』には太古からの大陸と日本の結びつきを示す神話が非常に多い。  例えばヤマタノオロチ退治で有名なスサノオは、新羅(古代朝鮮三国の一)に天降り、船で出雲に至ったと伝えられる。また、スサノオの孫である韓神(からかみ)はそのまま朝鮮の神の意味であり、これも古代の日本と大陸の密接な関係を反映するものである。

 西日本各地の縄文~弥生遺跡はこれを実証するものだ。朝鮮系の土器が多数出土している吉野カ里遺跡(佐賀県吉野カ里町)、古代中国の占いである骨卜(亀甲や獣骨を焼いて吉凶を占う)の道具である卜骨が多数出土した青谷上寺地遺跡(鳥取県鳥取市)など、例を挙げればきりがない。

 前2~後3世紀には大陸からのヒト・モノの移動、つまり相当の渡来人集団があったと考えられ、稲作や金属工芸を初めとする弥生文化を主導したと見られる。  なおスサノオは、出雲に降り立つ前に、オオゲツヒメという女神を殺して稲穂、五穀を手に入れたと伝えられている。これを水田稲作の起源神話、つまりスサノオが出雲に稲作をもたらしたと解釈すれば、スサノオは大陸からやってきた神といえるかもしれない。

 さて大陸と日本は対馬・壱岐→松浦半島へ至るルートが主だと見られるが、若狭湾以西の日本海沿岸へ直接来航していた可能性もある。

 この時代の日本、いわゆるヤマト王権成立前は、「クニ」が分立していた時代で、筑紫、出雲、越(北陸)など日本海沿岸に大きな勢力が存在した。そして対馬海流に乗った舟の移動によりこれら地域は交易で結ばれていたのである。

 次回はこの日本海交易を示すオオクニヌシの神話と、未来の環日本海経済圏の可能性について見ていきたい。(作家=吉田龍司、都留文科大学英文科卒業)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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