企業体力を癌治療分野へ 製薬会社は日本人のトップ死因に挑み続ける

2015年11月19日 08:24

 国内外の製薬会社が投資・注力分野を集約していく中、国内製薬大手アステラスもまた集中分野を絞る。

 アステラス製薬<4503>は11日、アトピー治療薬として有名な「プロトピック」をはじめとする皮膚科事業をデンマークのレオファーマへ譲渡する。後の余力は市場拡大が見込めるがんや泌尿器分野に投資する方針だという。

 今回の事業譲渡の対価は6億7500万ユーロ。アトピーやにきび、皮膚感染症など、主に中東地域で販売されている製品群関連の権利義務、資産が具体的な譲渡内容となる。

 日本でも使用者が多いアトピー治療薬「プロトピック」は2014年に国内の皮膚領域を得意とするマルホに販売権を移管したので今回の事業譲渡の内容には含まれていない。

 事業譲渡先となるデンマークのレオファーマはマルホと同じく皮膚領域の製薬会社として100カ国以上で販売している実績があり、創業自体は1908年と長い歴史を持つ。

 レオファーマの発表によれば、すべての製品群が移管すると20%以上の売上高を期待できるとしている。そしてアステラス側も海外皮膚科事業を手放すことで今後の強化目標分野であるがん・泌尿器領域に力を入れることができ、今回の事業譲渡は両社にとって目的とタイミングが合ったものだと言えよう。

 ここのところアステラスをはじめとして製薬会社の買収・合併・譲渡等、経営の変革や見直しが多くみられるが、その目的は今後の市場拡大が見込め、高いリターンが望める分野への投資・注力の集約である。その集中のターゲット分野とされているのが癌領域だ。

 14年度、厚生労働省発表の人口動態統計月報年計(概数)の概況 によれば、死因の第1位は悪性新生物、癌である。結果、1981年度以降、34年間に渡って死因1位が癌という事実は変わっていない。医学の進歩が急速な速さで進む中、癌という病との闘いは依然続いているということだ。

 製薬会社は患者に貢献するという目的を実現するためにも、癌領域に重点を置くことが自然な流れになるが、新薬の研究開発には時間と労力・技術、莫大な費用がかかる。この負担を少しでも軽くし、早期開発・販売にこぎつけるため、今回のアステラスのような動きが活発化しているのだ。

 同じような動きとしては、武田薬品工業<4502>の癌治療薬開発企業、ミレニアムシューティカルズ(アメリカ)、第一三共<4568>の同じく癌治療薬開発のユースリーファーマ(ドイツ)などの買収がある。しかし、製薬会社の本来の目的、患者を救うことと製薬会社の株主の意向は必ずしも合致するものではない。経営の大きな転換後に株主から企業としての成果を厳しく追及されることは多々ある。その成果がどう出るかは新薬の研究開発と同じく、長い目で見る必要がありそうだ。(編集担当・久保田雄城)

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