年間約2000人が発症。小児がんの子どもと家族を支えるもの

2015年11月7日 21:33

 日本人の死亡原因の第一位は「がん」。1980年頃までは脳血管疾患がトップだったが、それ以降はずっと、がんが首位となっている。しかし、これはがんの死亡率が上がっているということではない。年齢調整罹患率・死亡率の推移を確認すると、むしろ、医療技術の進歩などによって、がんの死亡率は減少傾向にあることがわかる。

 死亡者数が増えているのは、食生活の欧米化や生活習慣などによって、がんの発症率や罹患率が上がったことなども考えられるが、何より大きい理由は、日本社会全体の高齢化だろう。がんは免疫が低下する高齢者ほど罹りやすい病気なので、高齢化が進めばがんになる人が増えるのは必然だし、数が増えれば、がんで死亡してしまう人数が増えるのは当然だ。

 しかし、がんは高齢者だけに限った病気ではない。あまり知られてはいないが、15歳未満の小児の病気での死亡原因の1位も「小児がん」なのだ。小児がんはがん全体の1%にも当たらないぐらいまれなもので、小児人口1万人あたり約1人、全国で年間2000人程度という低い発症確率ではあるものの、今この瞬間も全国で16000人近い子どもが小児がんと闘っている深刻な状況だ。

 小児がんには、大人のがんとは異なる様々な問題がある。患者数が少ないため、治療法や薬の研究開発が遅れていることや、小児がんに精通した専門家も少ないせいで適切な診断や治療が受けにくいこと、そして大人のがんと違い、生活習慣病との関連がないので予防もしにくいことなどが挙げられる。

 また、治療には半年から1年間の長期入院が必要となるが、入院中の子どもたちの学習環境や教育体制、家族との時間、さらには長期の入院や通院にともなう経済的負担などの問題が大きい。

 経済的なものだけでなく、精神的に患者やその家族の療養生活を支えるものとして、公的機関に限らず、さまざまな支援団体が提供しているサービスもある。例えば、NPO法人「病気の子ども支援ネット」のようにボランティアスタッフが患児を訪問して一緒に遊んだり、難病と闘う子どもたちの夢をかなえる手伝いをする「メイク・ア・ウィッシュ」などのボランティア団体も積極的に活動しており、利用者も増えているようだ。

 そして、子どもたちの入院環境に対する改善も考えられるようになってきた。治療施設というと、どうしても閉鎖的な空間になりがちだ。とくに小児がんの治療には、ウィルスや細菌、カビや塵の流入や発生を抑えなければならないため、普通の家庭では考えられない程の高い清浄度が求められる。隔離とまではいかなくても、かなり仰々しい環境が必要になるのは仕方のないことだった。

 ところが、このイメージを払拭したのが「チャイルド・ケモ・ハウス」だ。建築主 公益財団法人 チャイルド・ケモ・サポート基金による同施設は、総合設計・企画を手塚貴晴、手塚由比、(株)手塚建築研究所、積水ハウス株式会社<1928>、施工を積水ハウス株式会社が担当した小児がん専門治療施設で、中庭に面して小さなユニットが集合し、それらが連なりあうことで、まちのような雰囲気のコミュニティをつくりあげた。自分の家のような感覚で、家族が共に暮らしながら治療を受けられることで、小児がん患者と家族が安心できる入院環境を日本で初めて実現している。つらい治療を受ける子どもにとって、すぐそばに落ち着ける家と家族の笑顔があることは、何よりの心の支えになるに違いない。これらの取り組みが評価され、同施設は「2015年グッドデザイン賞」業務用の建築・施設の分類で受賞している。

 さらに、同施設が立地する神戸医療産業都市には、国が指定した全国に15施設しかない小児がん拠点病院である兵庫県立こども病院が平成28年5月に移転・開院される予定であり、エリアとしての着目度が高まるとともに、利用者にとってさらに安心な環境が整う。

 小児がんの子どもやその親にとって、がんを宣告された時の絶望感は計り知れないものがあるだろう。しかし、小児がんは今や不治の病ではない。医学と医療の進歩によって、小さな子どもにも適切な治療を施せるようになり、今日では、小児がんの子ども8割が治癒し、成人を迎えている。この割合をさらに高めるためには、抗がん剤による化学療法や放射線療法、手術療法などの発展はもとより、闘病中の子どもと家族が前向きに治療に専念できる社会づくりが必要だ。(編集担当:藤原伊織)

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