【証券業界の4~9月期決算】総合証券はアセットマネジメント、投資信託の販売、ホールセールが好調
2015年10月30日 10:51
10月29日、証券業界の4~9月期決算が出揃った。全般的には、総合証券もネット証券も上半期の業績は好調で、夏場以降の株価低迷の影響はまだ小さく、これから出てきそうだ。とはいえ野村HD、大和証券Gのような総合証券はアセット・マネジメント、投資信託の販売、新規上場やM&Aのようなホールセールの分野が大きく、リテールの株式売買手数料収入の比率は相対的に小さい。両社の純利益を7~9月期だけ取り出すと2ケタの減益だったが、金融マーケットの状況次第で10~3月期に取り戻せる余地はある。
また、カブドットコム証券、松井証券、マネックスGのようなネット証券会社の収入は、個人投資家の中でも1日の間に頻繁に売買を繰り返す「デイトレーダー」から得られる手数料収入が大きい。だからこそ売買頻度が低い「NISA(少額投資非課税制度)」口座の売買手数料の割引や無料のキャンペーンができる。夏場以降に株価の変動率が大きくなった相場は、デイトレーダーにとっては売買で利ざやを稼ぐチャンスで、その分、ネット証券の手数料収入が増加している。証券会社の敵は株価の低迷ではなく薄商い。4~9月期の東京市場の日々の売買代金はコンスタントに2兆円を超えていた。
証券各社の自己売買のトレーディングでも、株価下落で多額の損失を出して業績を悪化させているわけではなく、しっかりと利益をあげている。
なお、マーケットの動向に大きく左右される2016年3月期の通期業績見通し、期末配当予想は、証券業界の慣例で各社とも非公表となっている。
■夏場以降に株価が低迷しても、ネット証券の手数料収入は増加している
4~9月期の実績は、野村HD<8604>は収益合計1.5%増、収益合計(金融費用控除後)2.1%増、税引前四半期純利益0.2%増、最終四半期純利益58.5%増の増収増益。10%から20%への投資増税直後の前年同期の減収減益から一変し、最終利益は2002年3月期に米国会計基準の適用を始めて以後で2番目の高水準だった。中間配当は前年同期比4円増の10円とした。主要3部門は、営業部門は投資信託の信託報酬などストック収入が伸び、アセット・マネジメント部門は運用資産残高がさらに増加し、ホールセール部門は海外で新規上場やM&Aの大型案件を獲得した投資銀行業務が好調で、揃って増収増益となった。ヨーロッパの特定子会社ノムラ・キャピタル・マーケッツの解散で繰り延べ税金資産を計上し、税金費用が約540億円減少したことも増益に寄与した。野村證券が上場主幹事に名を連ねる郵政3社の新規上場を前に、柏木茂介執行役財務統括責任者(CFO)は「新規口座の開設は通常の2倍のペース」と手ごたえを語っている。
大和証券G<8601>は営業収益14.8%増、純営業収益10.1%増、営業利益20.9%増、経常利益17.4%増、四半期純利益3.2%減。全て減収減益だった前年同期に比べると最終利益以外は2ケタ増だった。中間配当は前年同期比3円増の17円とした。リテール部門は投資信託販売やファンドラップの手数料収入が好調で20%の経常増益。ホールセール部門は新規上場、M&Aなど大型のグローバル案件を手がけてこれも好調で25%の経常増益。四半期純利益の減益要因は特別損失計上ではなく税金費用で、法人税などの負担率が正常化したことで租税の支払額が大幅に増加したため。
カブドットコム証券<8703>は営業収益24.7%増、純営業収益24.8%増、営業利益45.7%増、経常利益43.4%増、四半期純利益55.1%増という相当な好決算。前年同期は見送った中間配当を実施し、1株あたりの金額は6円だった。夏場から日本株は日経平均が2万円台から1万7000円台へ大きく下落し値動きも荒くなったが、ネット証券の利用者はデイトレーダーが多く、彼らにはチャンスが拡大した。そのため個人投資家の1日あたり株式売買代金は15.1%増加し、委託手数料収入は前年同期比で現物株式は23.3%、先物・オプションは36.6%増えている。
松井証券<8628>は営業収益13.7%増、純営業収益13.5%増、営業利益18.0%増、経常利益17.7%増、当期純利益33.3%増で最終利益が前年同期比で大きく伸びた。中間配当は前年同期比5円増の25円とした。5月に開始した新サイト「ネットストック・スマート」で株式取引機能の改善を行ったり、デイトレード限定の「一日信用取引」での売建銘柄の拡充など顧客サービス拡充が貢献し、株式等委託売買代金は15%増、委託手数料は20%増だった。
マネックスG<8698>は営業収益26.8%増、税引前利益1590.8%増(16.9倍)、四半期損益は前年同期の3億円の赤字から35億円の黒字に転化、最終四半期損益は前年同期の3億円の赤字から35億円の黒字に転化と、前年同期から業績を大きく回復した。中間配当は前年同期比5.8円増の7円とした。前年度はアメリカのFX(外国為替証拠金取引)子会社の売却損(事業整理損)を計上して最終赤字だったが、その要因が消えた上に国内、北米の株式の委託手数料も、国内のFX取引に伴うトレーディング収益も伸びた。ネット証券なので株価が急落した7~9月期も個人投資家の株式の売買は活発で、純利益は4~6月期とほぼ同水準だった。(編集担当:寺尾淳)