ボノボは100~180万年前にコンゴ川を渡り、独自の進化を遂げた―京大・竹元博幸氏ら

2015年10月26日 22:09

 京都大学の竹元博幸研究員・川本芳准教授・古市剛史教授は、ヒト科の進化の舞台と種分化の過程に関する新しい説を提唱した。

 アフリカのコンゴ川は、右岸北側に生息するチンパンジーと左岸南側に生息するボノボの分布域を隔てる明瞭な地理的障壁となっているが、これまでボノボがなぜコンゴ川左岸の熱帯林に分布しているのかは、わかっていなかった。多くの遺伝学的研究では、遺伝的に推定されるチンパンジーとボノボの分岐年代(80万年~210万年前)をもとに、この時代に形成されたコンゴ川がボノボとチンパンジーの共通祖先の分布域を分断し、種分化を促したと考えていた。

 一方、近年の海底油田探査や海洋底掘削計画(ODP)による海洋底堆積物の報告や、大陸の地質や地球物理学的探査の報告によると、現在のコンゴ川は3,400万年前に誕生したことが明らかになっている。これは、ボノボの分岐だけでなく、ヒトやゴリラの分岐よりもはるかに古い出来事である。

 つまりヒト科の祖先は、少なくともコンゴ川ができた3,400万年前以降はコンゴ川の右岸にしかおらず、ボノボはチンパンジー・ボノボ共通祖先の少数の個体が最近になってコンゴ川の左岸に移入し、そこで進化してボノボとなったと考えられる。また、100万~180万年前の非常に乾燥した時期にコンゴ川の水量が低下したことがあるため、ボノボの祖先はキサンガニ東の岩がつらなる浅瀬をわたってコンゴ川を渡ったと考えられる。この推定は、遺伝学的に推定されるチンパンジーとボノボの分岐年代(80万~210万年前)とも合致する。

 ボノボは、チンパンジーと異なるユニークな特徴を多数持っているが、こうした特徴を生息環境の違いから説明しようとする従来の試みはほとんど成功していなかった。今回の仮説のようにボノボの小さな個体群がある一時期にコンゴ川の左岸に入って進化したのだとすれば、ボトルネック効果と呼ばれる現象によって、ボノボ特有の行動が進化したと考えることができる。

 また、今回の仮説では、ヒトが分岐したとされる700万年前にはヒト科の共通祖先がコンゴ川の右岸地帯にいたことになるため、ヒトの誕生の地をサヘル~東アフリカ一帯とする考え方を支持するものとなる。

 研究メンバーは、「アフリカの環境や地形の変動の歴史に関する最新の情報に、現生の類人猿の遺伝学・生態学的知識を重ね合わせ、ヒト科の進化に関して魅力的な仮説を提示できたと思います」とコメントしている。

 なお、この内容は「Evolutionary Anthropology」に掲載された。論文タイトルは、「How did bonobos come to range south of the Congo River?
-Reconsideration of the divergence of Pan paniscus from other pan populations-
」(ボノボはどのようにしてコンゴ川左岸に分布するようになったのか?–ボノボとチンパンジーの分岐再考-)。

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