記憶や学習能力の基礎となる脳内構造体はこども時代につくられる―国立遺伝学研究所・岩田亮平氏ら

2015年10月18日 16:57

 国立遺伝学研究所の岩田亮平研究員・岩里琢治教授らは、マウスを用いた研究で脳機能に重要な影響を及ぼす脳内小構造体の形態形成に関与するたんぱく質を発見し、このたんぱく質がこどもの時の脳で働くことで、おとなになってからの脳機能(記憶力)を調節していることも明らかにした。研究成果は、脳発達の理解や自閉症などの病態解明に役立つことが期待される。

 脳は、無数の神経細胞がシナプスを介して作る巨大なネットワーク(神経回路)であり、大多数のシナプスは、神経細胞の樹状突起から棘のように出ている「スパイン」と呼ばれる構造体に作られ、スパインの形態は、シナプスの機能に大きな影響を及ぼしている。スパインは、発達期にさまざまな分子が協調して働くことによって形成されるが、その詳細は明らかになっていなかった。

 今回の研究では、海馬の神経回路異常を細胞形態レベルで探る目的で、細胞の形態制御に関与するタンパク質「α2キメリン」をノックアウトしたマウスを作り、その海馬を解析した。その結果、スパインが大きくなり数も増えていること、そして軸索走行や細胞の位置や樹状突起の形態には異常はみられないことがわかった。これらの結果から、α2キメリンがスパインの大きさと数を抑制していることが明らかになった。

 一般にα2キメリンは子どもの時期に強く発現しているが、おとなになってからも完全になくなるわけではない。そこでα2キメリンがおとなのスパイン形態に影響するか検証するため、おとなになってから海馬のα2キメリンをノックアウトしたところ、このマウスではスパイン形態の異常はみられないことがわかった。

  一方、胎児期にα2キメリンをノックアウトしたマウスでは、おとなになってからのスパインが大きく、数も増えていた。子どもの時期(スパイン形成が活発になる前の生後10日目頃)にノックアウトしたマウスでも同様だった。

 さらに、スパイン形成が本格的に始まる前の生後10日目に海馬でα2キメリンをノックアウトしたマウスは、おとなになってからの海馬依存的学習(記憶力)が向上することが分かった。海馬切片を電気生理学的に解析することで、α2キメリンを欠損した海馬ではシナプスの伝達効率がよくなっていることもわかった。

 これらの結果から、α2キメリンがスパインの大きさや数を抑制するほか、おとなではなく子ども(生後10日目以降)の海馬ではたらくことによって「おとなになってからの海馬のスパイン形態と、海馬を用いる記憶能力」を適度に保つはたらきを担うと考えられる。

 今後は、本研究成果が脳発達の理解や自閉症などの病態解明にも役立つことが期待される。

 なお、この内容は「The Journal of Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Developmental RacGAP α2-Chimaerin Signaling Is a Determinant of the Morphological Features of Dendritic Spines in Adulthood」。

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