東北大らががん転移の新規治療法を開発 効率良くがん転移を抑制する抗体を作製
2015年10月16日 16:19
東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授、金子美華准教授の研究グループは、東京大学大学院医学系研究科の深山正久教授、国田朱子助教の研究グループ、徳島大学大学院医歯薬学研究部の西岡安彦教授、阿部真治助教の研究グループと共同で、がん細胞に高発現する糖タンパク質のポドプラニンに対して、がん転移抑制抗体を作製することに成功したと発表した。
ポドプラニンはがん転移を促進することから、その活性を中和することが最も重要と考えられていたが、加藤教授の研究グループが開発した次世代型抗体開発技術であるキャスマブ法を用いることにより、中和活性に依存せずに、細胞傷害活性のみで効率良くがん転移を抑制する抗体を作製したという。
がん転移促進因子のポドプラニンは、悪性脳腫瘍、悪性中皮腫、肺がん、食道がん、卵巣がんなどの複数の難治性がんに高発現し、がん細胞の浸潤や転移を引き起こすことが知られているため、抗体医薬格好の標的となる。がんの治療においては、原発巣を治療するだけでなく、転移巣注いかに制御するかが重要。これまでは、ポドプラニンの発現する原発巣に対する治療効果のみを調べる研究や、ポドプラニンの転移促進活性を中和することだけを目的に抗体医薬開発が行われていた。また、一旦転移巣が形成されると、もはやがんの制御は難しいと考えられていた。
今回、同研究グループは、抗腫瘍活性の高い抗体を樹立することにより、転移巣ができてからも十分にがん転移の治療が間に合うのではないかと考え、様々な治療実験を実施した。加藤教授らは昨年、がん細胞と正常細胞に同じ糖タンパク質が発現している場合、タンパク質に付加された糖鎖の種類の違いや糖鎖の付加位置の違いに着目し、その差を見分ける抗体を戦略的に樹立する方法を立ち上げ、キャスマブ法と命名した。
加藤教授らは、次世代型抗体開発技術であるキャスマブ法により、がん細胞特異的な抗体を作製できるだけでなく、幅広くがんの診断や治療に役立つ抗体を作製できることを実証してきたという。そして、今回の研究において開発した新規抗体(キメラ型 LpMab-7;chLpMab-7)が、がん細胞が転移巣を形成した後においても治療効果をもたらすことがわかり、ポドプラニンを標的とした抗腫瘍活性の高い抗体医薬により、中和活性に頼らず、がん転移の治療が可能であることを証明した。(編集担当:慶尾六郎)