【コラム】安保法案、国家の『分岐点』にしてはならない

2015年9月5日 12:36

 集団的自衛権の行使を含む安保法制見直し「法案」が政府・与党の国会での圧倒的議席数の下に、今国会で成立する見通しだ。事実上の憲法9条「破壊行為」を、時の政権と自民党、公明党が行うことになる公算が強い。米国の要請、そして米国と先約してきた事実が参院の安保特別委員会で次々、明らかにされている。

 今日の状況を迎えた起点が、安倍晋三氏が自民総裁、総理ポストに返り咲いた直後に渡米し、オバマ大統領に集団的自衛権の見直し検討を伝えたときから、本格始動したことは過去のコラムでも書いてきた。集団的自衛権行使容認を憲法解釈変更で実現することを、事実上、約束してきたといえる。自ら首脳会談でとりあげたということは、そういう意味合いを持つことにならざるを得ない。

 そして、昨年7月1日、閣議決定で解釈改憲を実現した。戦後70年守り続けてきた平和憲法の下での「集団的自衛権の行使禁止のカギ」(憲法9条)を壊した。

 解釈変更を実現した安倍内閣の下で、安保法案作成作業と並行し、法案成立後の自衛隊部隊の編制や行動計画づくりが法制化される以前というか、法案の国会審議前から進んでいたことは、日本共産党の小池晃議員が参院安保特別委員会で明らかにした統合幕僚監部の内部資料、さらに仁比聡平参院議員が今月2日明らかにした「統幕長訪米時の会談結果概要」(昨年12月)と題する内部資料で明らかになった。

「米軍中枢との会談で統幕長は『(安保法制について)来年夏までには終了する』と法案成立時期を伝え、しかも、小池議員の内部資料では、スーダンへのPKO活動で、来年2月ないし3月から、新法での駆けつけ警護実施が記されていた。

 安倍総理が総理としてではなく、個人的に日米安全保障条約の片務性を解消し、双務性に近づけたいと思うのは自由だが、条約の内容はそもそも憲法に合致した内容でなければ締結してはいけない。それでも、そうした内容の条約が必要で、憲法に反する内容なら、憲法改正を行うのが筋だろう。

 日米の新ガイドライン(防衛協力指針)も、そして、このガイドラインの実効を果たすための安保法制も、憲法の範囲内でなければならないことはいうまでもない。

 しかし、安倍総理は憲法解釈の変更を閣議決定し、今年4月29日の米議会上下両院合同会議演説では「(安保法制において)戦後初めての大改革」と語ったうえで「この夏までに成就させる」と断言してきた。

 この演説では「一昨日、ケリー国務長官、カーター国防長官、岸田外務大臣、中谷防衛大臣が協議しました。(安保法制の)法整備を前提に、日米が持てる力を、よく合わせられるようにする仕組みができました。それこそが日米新ガイドラインにほかなりません。昨日、オバマ大統領と私は、その意義について認め合い、真に歴史的な文書に合意したのです」と語った。

 今日の安保法制の成立はアメリカへの既定の約束であり、安倍総理は米国との約束に目を向け続けているが、憲法やその主権者である日本国民に目が向いていない。

 長年の個人の思いであった日米安保条約の片務性解消による軍事同盟関係の実現、それによる安倍総理が考える自主独立(?)の対等な国対国の関係構築を目指しているのだと思われる。

 民主党の岡田克也代表が最近、折に触れ街頭演説で訴える、自民党の目指す方向、民主党の目指す方向につながっている。

 岡田代表は「自民党が目指しているのは憲法を改正し、制約なきフルスペックの集団的自衛権行使ができる、いわゆる普通の国」だと訴える。

 安倍総理は日本を『普通の国』にしたいと願ってきた。その原点が自主憲法制定であることは、安倍総理はじめ自民党議員らであることはいうまでもない。

 岡田代表は「民主党は平和主義を基に、海外での武力行使に抑制的な国を目指す」方針を示している。そして「日本は今、分岐点に立たされている」と危機感を隠さない。

 国民の半数以上が違憲の疑いがあるとし、8割は安保法案の説明は十分でないとしている中で、政府・与党は本当に安保法案を議席の数で成立させる愚行を行うのか。少なくとも国民の過半数が納得する法案になるよう審議は継続すべきだ。

 安倍政権の暴走にブレーキ役を果たしてきた公明党の働きも注視される。国会包囲をはじめ全国で「違憲法案は廃案に」と叫んでいる国民運動の中に、平和の党を標榜する公明党を支える母体の創価学会の「旗」が見られた。その支持者らの意思や思いをどう受け止めるのか。最高学府の創価大学関係者らが大学関係者に呼びかけている安保法案反対署名は3日現在1700人を超えた。

 署名した人の声には「よくぞ声をあげてくださいました。卒業生として心からお礼を申し上げます。創立者の精神はまさに、あなたたちの青年の中に宿っています」「戦後最大の危機だと思います」など、痛切な危機感の伝わるものが多い。違憲法案を成立させることに加担するとすれば、公明党が変質したと批判されるのは免れない。本当に慎重を期すべき案件なのだ。

 今回の安保法案は憲法と日本国家の方向の歴史的分岐点となる危機的事態だが、創価学会、公明党にとっても、また重いものになるのだろう。筆者は両方ともに『分岐点にならない選択を』切に願っている。(編集担当:森高龍二)

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