理研、自然免疫の記憶メカニズムを解明―エピゲノムの変化が持続

2015年9月4日 13:41

 理化学研究所の吉田圭介特別研究員、石井俊輔上席研究員らの共同研究チームは、自然免疫に記憶が存在し、病原体感染によるエピゲノム(※)変化の持続がその記憶メカニズムであることを明らかにした。

 ヒトの免疫系には、先天的に備わった「自然免疫」と、生後獲得していく「獲得免疫」があり、自然免疫はマクロファージなどにより病原体に対して初期防御を行う。一方で、獲得免疫は、B細胞やT細胞などのリンパ球により、一度侵入した病原体を認識して排除する。つまり、ヒトの体は、一度侵入した病原体が再度侵入した時、より早くその病原体を認識し排除するための「免疫記憶」を持っている。

 今回の研究では、転写因子ATF7の変異マウスのマクロファージが活性化されていることに気づき、一連の解析の結果、マクロファージでは一群の免疫系遺伝子にATF7が結合し、ヒストンのメチル化酵素G9aを運び、ヒストンをメチル化することにより発現を抑制していることが明らかになった。

 さらに、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)をマウスに投与し病原体に感染した状態を再現したところ、Toll様受容体(TLR)からのシグナルによりリン酸化されたATF7がこれらの免疫系遺伝子から外れ、ヒストンのメチル化が低下し、転写が誘導されること、LPSを投与して3週間後でもこれらの遺伝子のヒストンメチル化レベルは低い状態で維持され、基底発現レベルの高い状態が継続していることが分かった。

 これらの結果から、自然免疫に記憶が存在し、病原体感染によるエピゲノム変化の持続がそのメカニズムであることが明らかになった。

 今回の研究結果によって、特定の遺伝子をアレルギーの予測に使える可能性や、効率的なワクチンの開発にも役立つことが期待される。

 なお、研究内容は「Nature Immunology」に掲載された。論文タイトルは、「The transcription factor ATF7 mediates lipopolysaccharide-induced epigenetic changes in macrophages involved in innate immunological memory」。

※エピゲノム:DNAやDNAが巻き付くヒストンが化学修飾(メチル化など)された遺伝子配列情報。このような化学修飾情報のいくつかのものは、細胞分裂を超えて伝わる。またこのような情報は環境要因により変化し、それが様々な疾患の発症に影響することが示唆されている。

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