人民元切り下げへの市場の反応は過剰反応
2015年8月17日 08:00
*08:04JST 人民元切り下げへの市場の反応は過剰反応
先週の中国当局による連日の人民元の切り下げ(対ドルレート)は世界の金融市場に大きな影響を与えた。リスク回避の動きが強まり、世界的に株価は暴落、ドルが買われ、新興国通貨が売られ、商品相場も大きく下落した。
しかし、人民元の切り下げ自体に対する反応としては、今回の金融市場の反応は過剰反応と言わざるをえない。もともと、米国経済が堅調なのと米国の年内利上げを意識して、世界各国の為替は対米ドルで下落トレンドが続いていた。しかし、人民元の水準は「強い人民元」や人民元の国際化をもくろむ中国によって対ドルでほぼ横ばいで推移してきた。経済が堅調な米国と減速感の出てきた中国との対比において、それに見合う通貨の調整は行われてこなかったのである。これにより人民元の実効レートは実力よりも高値で推移してきた。
従って、今回の人民元の切り下げにより「実勢値に近づけた」という中国の主張はもっともな点があるといえる。
仮に米国が9月に利上げした場合は一段と乖離が大きくなり、より調整が困難との思惑があったのだろう。
また、国際通貨基金(IMF)が、人民元のSDR(特別引出権)採用を見送る理由として、人民元取引の自由化を進める必要があると述べていたことも背景となっているとみられる。IMFは今回の切り下げの措置についても歓迎する意向を示している。
今回の切り下げは中国が通貨安戦争を仕掛けてきたと煽る向きもあるが、そのような指摘は全く当たらない。突然かつ大胆な切り下げにもかかわらず、米国の反応は冷静で、ある程度容認しているように見える。
中国の閉じられた株式市場で人為的に上昇させた株価がその分剥落したり、為替が実勢に従って調整される点については、世界経済に与える影響は限定的だ。今回は例によってやり方が乱暴であったが、中国が人民元の国際化や「強い人民元」を放棄したわけでもない。
最も重要な問題は、中国の実体経済がどの程度減速して行くのかの一点にかかっている。中国はギリシャと違って巨大な輸出産業があり、通貨安で景気を下支えすることができるほか、金融緩和や公共事業により景気対策を打つ余力は十分持っている。アジアインフラ投資銀行(AIIB)も国際資本を導入して需要を創出する施策とみられる。
中国が今回の件をもってハードランディングしつつあると見るのはまだ早計だ。7%成長の目標に向けて今後どのような施策を打ってくるか注意深く観察する必要がある。《YU》