軽自動車「64ps出力規制」を「軽自動車税&重量税・増税」とトレードして良いのか?

2015年8月15日 20:51

 日本の乗用車新車販売の約4割が軽自動車となっている。これが、日本の自動車マーケットの現状だ。昨年度のトップセールスモデルは、辛うじてハイブリッド車(HV)のトヨタ・アクアとなったが、トップ10には7車種の軽自動車がランクインしたことも大きなニュースになった。

 軽自動車の最初の現実的な規格は、1954年に決定したボディサイズ全長×全幅×全高3000×1300×2000mm、エンジン排気量は2サイクル/4サイクルを問わず360ccというものだった。この規格に沿って生まれた名車が富士重工業の「スバル360」で、軽自動車が日本国民のエントリーカーとして急速に普及した。これまで国は軽自動車に対する市場の要求に呼応して、軽自動車の規格を何度も変更してきた。表向きの理由は、衝突安全性の確保だ。このため下記のように規格を修正してきた。

 軽自動車枠は、まず1976年に全長×全幅×全高3200×1400×2000mm、エンジン排気量を550ccに拡大。1990年に3300×1400×2000mm、660ccに。そして、1998年に3400×1480m×2000mm、660ccと変更が繰り返された。

 このコンパクトなサイズのなかで軽自動車メーカー各社は衝突安全性を担保するボディ設計を目指し、一昨年デビューした「ホンダN-WGN(エヌ・ワゴン)」は、自動車の安全性能を試験評価する平成25年度自動車アセスメント(JNCAP)において最高評価となる「新・安全性能総合評価ファイブスター賞」を軽自動車として初めて受賞した。

 しかし、1998年,直近の軽自動車規格変更の際に、国は「軽自動車のこの程度のサイズ拡張では、衝突安全性を十分確保できない」として軽自動車エンジン出力の上限規制(64ps)は撤廃せず、現在まで残ることになった。

 軽自動車の最高出力自主規制の発端は、1987年2月に64psを引っ提げて登場したスズキ「アルト・ワークス」だった。軽自動車の最高出力向上競争を背景とし、国がその安全性を憂慮して指導に入った事から、各メーカーが自主的に規制したものとされている。が、現実は、法的な規制とすると非関税障壁などと海外から非難される可能性があるため,自動車業界の自主規制という形をとった。

 当時のスズキ「アルト・ワークス」のスペックは、エンジンが 550cc・3気筒DOHC・4バルブ+ターボ(インタークーラー付き)で、最高出力64ps/最大トルク7.8kg.mだった。550ccながら現在の660ccエンジンと遜色のないレベルのユニットで、600kg程度のアルトの車重には十分以上の性能だったといえる。

 以降、この軽自動車の64ps規制は現在まで継続している。一方,普通乗用車に適用されていた自主規制、280ps規制は2004年10月に発売されたホンダ・レジェンドに搭載した新エンジンKB1/2型が300psになったことにより、事実上撤廃された。その理由は、北米などの市場で「ドイツ車などの高性能車と互角の性能を与えなければ競争に勝てない」という理由が採用された。

 しかしながら、軽自動車の出力規制は、当面解除されそうにない。メーカー各社は限られた条件「排気量660ccのエンジンで効率良く高出力を」と考え、研究・開発を行なっている。そこで、より効率よく馬力を上げる手段として利用されているがターボだ。これを装着することで、軽規格の排気量内で、自主規制いっぱいの最大出力を効率良く出せる。

 ターボを付けると「燃費が悪くなるもの」というイメージがあるが、使い方によって燃費を大きく向上させつつ、エンジンの性能を向上させることも可能だ。ここ数年、欧州メーカーを中心に低燃費と高性能を実現するテクニックとして「ダウンサウジングコンセプト」がトレンドとなった。日本でもこの動きに合わせて見直しが進み、ダウンサウジングコンセプトで作られたエンジンを搭載したクルマがトヨタやホンダが相次いで発表している。

 話がターボに流れてしまったが、冒頭述べたように軽自動車の安全性は飛躍的に高まっているにもかかわらず、軽自動車の64ps規制は相変わらず続いている。一方で普通乗用車は、前述したようにドイツ車に代表される高性能車と日本車が北米市場で対抗するために280ps規制を撤廃し、グローバルな競争力を高めた。

 だからという訳ではないが、「軽自動車64ps自主規制・撤廃」を求める声は少なくない。1987年のスズキ・アルト・ワークスの登場から30年ほど経過し、軽自動車は安全性を確保するためにボディが重くなった。しかも、最近売れる軽自動車は居住性を重視して、どれも背が高い。車重が1tに限りなく近い軽自動車は珍しくない。運動&燃費性能向上のためにも「64ps規制を撤廃せよ」という声は多い。

 しかし、単純に規制撤廃を求めることは、消費者にとって得策といえない側面もありそうだ。今年4月から軽自動車税が従来比1.5倍の1万0800円に引き上げられた。が、国は海外から非関税障壁として批判されている「軽自動車の優遇措置」を撤廃する機会を狙っている。「64ps規制を撤廃し、全幅の上限を70mm拡大して1550mmとし、排気量800ccまで認める代わりに、軽自動車税と重量税を値上げする」案が密かに練られているらしい。

 東京のように公共交通インフラが充実した都会ならともかく、未発達な地方では、軽自動車が主婦や高齢者の買い物や通院のための重要な足となっている。こうしたユーザーにとって“重要な道具「軽自動車」”に対する増税と出力規制撤廃をトレードして良いものなのだろうか?(編集担当:吉田恒)

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