ヤマハのレストアのこだわりにみる、日本の製造業の底力
2015年7月19日 20:36
日本の製造業界では「ものづくり」という言葉がさかんに使われる。もちろん、これは単純に「ものを製造する」というだけの意味ではなく、そこに込められた技術力や精神性、歴史をも表していることは言うまでもない。
「ものづくり」という言葉が使われはじめたのは1990年代の後半。折しも、バブル経済が崩壊し、失われた10年といわれる経済の停滞期だ。1995年以降、失業率は3%を超え、若者たちは就職氷河期に突入し、中高年のサラリーマンたちはリストラに戦々恐々とした。製造業も例外ではない。しかも、バブルの影響だけでなく、中国や台湾、韓国などのアジア新興国の台頭により、仁義なき価格競争に突入した。グローバル化の動きが加速し、大手製造業は円高を理由にこぞって海外に移転をはじめた。その結果、地方の工場の撤退・縮小が相次いだ。そんな中で生まれたのが「ものづくり」という言葉だ。
日本の「ものづくり」を象徴する、こんな話がある。今年、創業60年を迎えたヤマハ発動機<7272>の企業ミュージアム・コミュニケーションプラザには、第一号製品の125㏄オートバイ「YA-1」をはじめ、二輪車を中心に同社の歴史を彩ってきた合計約130機種もの製品が「発売当時の姿」で収蔵されている。世界2位の販売シェアを誇るオートバイメーカーだけに、そのラインナップはそうそうたるものだが、とはいえ飾ってあるだけならば、とくに驚くことではない。しかし「発売当時の姿」が外観だけでなく性能を含めてのことだとしたらどうだろう。なんと、ここに展示された製品はオイルや燃料を入れるだけで、すべて発売当時と同じように走らせることができるというのだ。
同社の豊岡工場内には専用のレストア(復元)室が設けられ、日々歴史車両の復元作業が進められているが、形状や色、素材感を残すことだけでなく、当時のままの機能や性能、排気音まで蘇らせることにこだわっているという。実際、車両が復元されるとその都度社内の人々が集まり、細部までチェックを行ったうえで動態確認を行っているそうだ。
そこでレストアと動態保存を担当する花井眞一氏は、自分たちの会社でつくった製品を後世に残すということは、企業文化の醸成という意味で非常に大切だと語る。
60年前の製品と今の最新モデルでは性能面だけでみると比ぶべくもないが、そのボルト一本一本に込められた歴史と重みは図り知れない。日本の「ものづくり」の原点と強さは、その中にこそあるのではないだろうか。歩んできた道を振り返れば、自信にも繋がり、底力にもなるだろう。
今年末にいよいよ発足するアセアン経済共同体(AEC)の影響で再びグローバル化の動きが加速している昨今、日本の製造業はもう一度、言葉だけではない、ボルト一本に込められた歴史や精神を再認識しておく必要があるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)