製造業で注目される「地産地消」。大企業が国内回帰する理由
2015年7月12日 16:47
「地産地消」という言葉を耳にする機会が増えているが、地産地消という考え方は何も農林水産業界に限ったものではない。今、製造業でも「地産地消」が注目されている。
これまで、製造業者の海外展開は欧米先進国の市場が中心で、アジアの新興国に対しては日本および他国に輸出する製品の生産拠点的な位置付けをしていた。ところが近年、中国や台湾などの新興国で所得水準が向上し、富裕層や中間層の人口増加とともに内需が拡大していることや、タイやインドネシアなど東南アジア10カ国が加盟するASEAN経済共同体の発足などを控え、アジア市場全体が急速に成長していることから、特に自動車製造関連企業を中心に巨大市場に対応する動きが活発になってきている。
一方、製造業の一部では製造拠点を国内回帰する動きも拡がっている。例えば、事務機器・デジタルマルチメディア機器などを製造するキヤノン<7751>は、現行で4割程度を占める国内生産比率を、今後3年以内を目処に6割程度まで引き上げる方針を明らかにしているし、家庭用プラスチック製品の製造販売を行うアイリスオーヤマも、国内の発光ダイオード(LED)照明の生産能力を強化している。ホンダ系部品製造の最大手であるケーヒン<7251>も海外に展開していた製造ラインの一部を宮城県内に戻している。さらには、パナソニックも、洗濯機やエアコンなどのいわゆる白物家電製品や美容家電について、国内生産に切り替える動きをみせている。これらの背景にはもちろん、円安や海外生産のコスト上昇があるが、それを単純に「撤退」と見なすのはいささか浅慮だろう。
そもそも、海外に拠点を置くことで円安のダメージを受けてしまうのは人件費と物流費だけだ。製造コストの大部分を占める材料費や減価償却費、研究開発費などは、どこに拠点をおいてもさほど変わらない。国内に生産拠点を戻したところで、得られる効果は限られている。何よりも、前述の企業が国内回帰を模索し始めたのは、円安が急激に進行する以前。キヤノンやホンダ、パナソニックが国内回帰を始めている理由は他にある。
その分かり易い例として挙げられるのが、自動車用防振ゴムの製造で世界トップシェアを誇る住友理工<5191>だ。同社は、名古屋にグローバル本社を設置することを発表したり、京都府綾部市に33億円を投じて産業用ホースの製造子会社「株式会社TRI京都」を設立、これをマザー工場と位置づけるなど、ここ数年でグローバルな事業展開に向けた活発な動きをみせている。7月7日には山形県庁において記者会見を催し、同県米沢市で自動車用防振ゴム製造新会社である住理工山形株式会社(SRK-YG)の操業を2016年6月から開始すると発表した。会見には住友理工グループの代表取締役会長兼CEOの西村義明氏をはじめ、同社執行役員防振事業部長の矢野勝久氏が出席、吉村美栄子山形県知事、安部三十郎米沢市長も同席した。新会社の代表取締役社長には矢野氏が就任する。
新会社は住友理工グループの新たな生産拠点であるだけでなく、東北地方への初展開という点でも注目を集めている。同社ではこの新会社設立によって、東北・北関東地方の国内自動車メーカーに迅速で効率的な製品供給が可能になるとしている。しかし、何故今、山形なのか。
記者会見では、西村会長兼CEO及び矢野住理工山形社長は「地産地消」で競争力のある製品を安定的に供給する目的で調査を進めた結果、同市への進出に至ったと話しており、さらには地元の優秀な生徒の雇用が期待できることや、山形県や米沢市の行政が協力的であることなどを進出の理由に挙げている。まさにこれこそが今、製造業者で拡がる「地産地消」の理想的な姿ではないだろうか。
住友理工の例をみると、キヤノンやパナソニックなどの動きも、国内回帰というよりは「地産地消」と考えた方がしっくりくる。やみくもに海外に進出するのではなく、日本も世界の国の一部とみなし、必要な物を必要なところに配置する。その結果として、日本に戻ってくるだけのことだ。ある意味では、これこそがグローバル化の本質なのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)