産総研、ナノロボットで線虫の細胞制御に成功―分子レベルでの病態解明ツールとして期待

2015年7月10日 17:18

 産業技術総合研究所(産総研)の都英次郎主任研究員らは、光によって発熱できるカーボンナノチューブ(CNT)と特定の温度で内包分子を放出する温度感受性リポソームを組み合わせて、線虫体内の細胞機能を制御できる分子複合体(ナノロボット)を開発することに成功した。

 分子を思いどおりに並べて動かすナノテクノロジーは、科学・技術全般における重要なテーマの一つであり、近年は特に、規則的に集合、組織化した分子により高度な機能をもつナノロボットに大きな注目が集まっている。

 今回の研究では、アビジン、ポリエチレングリコール(PEG)、リン脂質(PL)からなる分子(アビジン-PEG-PL)を単層CNT(SWCNT)の表面にコーティングし水中へ分散させ、リポソームには各種リン脂質とコレステロールの配合量を調整のうえ、アビジンと強く結合できるビオチンを表面に結合させて「ナノロボット」を作り出した。

 そして、およそ1000個の細胞からなる線虫を用いて、今回開発したCNTとリポソームの複合分子体であるナノロボットの運動抑制効果を検証したところ、近赤外レーザー光(波長808nm)をアミロライド感受性のナトリウムチャネルが存在する尾部に照射すると線虫の動きが徐々に遅くなり最終的には動きを完全に止められることが分かった。

 これは、近赤外レーザー光を照射すると、CNT近くの温度が急激に上昇して温度感受性リポソームの構造が変化し、内部のアミロライドが放出され、線虫のアミロライド感受性チャネルタンパク質が阻害されたためと考えられる。

 さらに、ヒト子宮頸部類上皮がん細胞(HeLa細胞)と線虫を用いて、今回開発したナノロボットの細胞毒性と生体適合性を評価したところ、ナノロボット、CNT、リポソームのそれぞれを分散させた3種の培養液をHeLa細胞に投与し、WST-1法により4時間後と24時間後に生きているHeLa細胞の割合を測定しても、細胞生存率の低下は見られないことも明らかになった。

 研究チームは今後、今回の技術を応用して、生体組織の限られた領域だけに存在する細胞機能を個々に調べることで、がんや免疫疾患などの分子・細胞レベルでの病態解明につながる研究用ツールを開発したいとしている。一方、生体内のナノ物質が健康面に与える影響は不明瞭な点もあるため、CNTで作製する様々な物質の細胞毒性評価や生体適合性評価を進めて、生体内で安心・安全に利用できる材料やシステムの開発を目指すという。

 なお、今回の研究内容はドイツの化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

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