黒田発言は為替戦争勝者の勝利宣言
2015年6月15日 07:58
*08:00JST 黒田発言は為替戦争勝者の勝利宣言
先週の10日、日銀の黒田総裁が「(実質実効為替レートからみると)さらに円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と発言したことにより、ドル円相場は急落し、ものの数十分で一気に124円台半ばから122円台半ばへと約2円も下がった(円高)。
日銀総裁がここまではっきり為替水準に言及するのは極めて異例のことだ。後に政府関係者が「総裁の発言は曲解された」などと火消しに回ったが、「さらに円安に振れることはありそうにない」という発言内容自体は曲解しようがないようにみえる。
現在世界は通貨安戦争のまっただ中にある。自国通貨安は自国企業のモノやサービスを世界に安く売ることができるということから、自国企業の競争力に直結するため、各国は金融緩和・量的緩和策をテコとした自国通貨安誘導に躍起になっている。黒田発言に前後して、オバマ米大統領が「ドル高は問題」と言及したとの報道や(後に否定)、メルケル独首相が「強過ぎるユーロは改革を困難にする」と述べたことは、各国がどれほど自国の通貨高を恐れているかという証左だ。
この点、日本は通貨安戦争において大勝利を収めたといえる。日銀の量的緩和策等により、ドル円が2011年に最安値75円台をつけた水準から約50円も上昇した他、主要通貨全般に対して大幅な円安となった。円高不況は過去のものとなり、日本企業はバブル期を超える過去最高益を更新するところが続出している。
黒田総裁も「円安は基本的に日本経済にとって良いこと」という態度を維持してきた。今回の「さらに円安に振れないだろう」という発言は何を意味しているのだろうか。
これは、従前の態度からの明らかな変化であり、上述の大勝利を経て、「もう既に十分だからさらに円安に振れなくてもいい」と取ることができる。また、このような踏み込んだ発言をした背景には、米国が利上げの準備に入り、日米の金融政策が完全に逆方向となるため、円高トレンドに回帰する変化は生じそうにないということもあるだろう。
俯瞰してみると、為替戦争における勝者の完全勝利宣言でもあり、「敵」に塩を送れるまでになった余裕の発言とみることが可能だろう(塩を送らないと海外からの円安批判の高まりが抑え難くなったり、米国とのTPP交渉が暗礁に乗り上げてしまう等という深謀があるのかもしれない)。さらに言うと、黒田総裁が考える「これ以上の円安は弊害の方が増える」という分水嶺が125円辺りの水準とも理解できる。
もう一点重要な点は、これ以上円安が進み過ぎると、追加緩和カードが切り難くなるため、これを避けたいということだろう。《YU》