北大、これまでの定説を覆す「量子トンネル効果」の振る舞いを明らかに

2015年6月5日 16:23

 北海道大学は、固体有機物と水素・重水素原子との化学反応において、極めて同位体効果の小さい量子トンネル効果を発見した。

 化学反応が進むためには、その反応を起こすために必要なエネルギーを乗り越える必要がある。しかし、水素など質量の小さい粒子の場合には物質の波動性が顕著になるため、十分なエネルギーが無くても量子トンネル効果で反応エネルギーの活性化障壁を透過することがある。この量子トンネル効果を引き起こす物質の波動性は質量に反比例するため、反応物を重い同位体に置き換えた場合、反応速度が遅くなり、これを同位体効果と呼んでいる。

 今回の研究では、量子トンネル効果で進む反応に大きな同位体効果が観測されるかどうかを調べるために、超高真空・極低温実験装置を用いて、固体のベンゼン(C6H6)と、水素(H)、もしくは水素の同位体である重水素(D)を反応させる実験を行った。

 その結果、固体のベンゼンの表面にH原子またはD原子を照射すると、量子トンネル効果によってシクロヘキサン(C6H12またはC6H6D6)が生成されることが分かった。しかし、反応速度の比はわずか1.5程度(H/D=1.5)で、同位体効果は非常に小さいことが明らかになった。

 気相におけるベンゼンとH、D原子との反応には大きな同位体効果があることが知られており(H/D=100)、この「同位体効果の小さい」奇妙な量子トンネル効果は「固体の表面」での反応に特有の現象であると考えられる。

 今回の研究で発見された「同位体効果の小さい」量子トンネル効果は「量子トンネル効果で反応が進むときには大きな同位体効果が観測される」という今までの常識に一石を投ずるものであり、多くの分野に影響を与えることが考えられる。

 また、化学反応の多くは今回の研究のように物質の「表面」で進んでいるため、「同位体効果の小さい」量子トンネル効果は他の反応でも普遍的に存在している可能性がある。今後、「同位体効果の小さい」量子トンネル効果を考慮することによって、多くの化学反応のメカニズムについて理解が深まることが期待される。


 なお、この内容は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

関連記事

最新記事