【インタビュー・前半】佐藤繊維・佐藤正樹社長 私たちが「ギア」を始めた理由――山形県寒河江市に大型コンセプトショップを開業
2015年5月25日 11:13
佐藤正樹社長と、「M&KYOKO」デザイナーで妻の佐藤今日子さん
紡績ニットの佐藤繊維は4月、山形県寒河江市にある自社工場の敷地内に、コンセプトショップ「ギア(GEA)」を開いた。石作りの酒蔵を改築した店舗には、「リック オウエンス」や「メゾン マルタン マルジェラ」「ラグ&ボーン」といったハイブランドから、「カラー」や「08サーカス」など日本の気鋭ブランドまで、ものづくりに深いストーリーを持つアイテムが並ぶ。そのこだわりは、家具や器などのインテリア製品にまで及び、さらに、そのアイテムに囲まれた生活を思い描きながら、ゆっくりとお茶を楽しむことができるカフェもある。すべて、佐藤繊維にとっては初の試みだ。
「ギア」を作るにあたり、佐藤繊維にしかできないこと、地方だからこそできることを見つめ直したという佐藤正樹社長。同社の描く未来像を反映させたともいえる「ギア」への思いやビジョンについて聞いた。
地方だからできることがある
――まず、「ギア」をオープンした経緯を教えてください。
日本の小売りビジネスは、人が多く集まる東京や都心に集中しています。人の集まる都心には、その分独自の面白い商品も集まりやすいですよね。一方地方では、コストが安く店頭で売れているものを追いかける傾向が強い。もちろん、面白い洋服を作っているデザイナーもたくさんいますが、実際にそれを扱うお店が少ないのです。
ただ都心では、費用対効果や坪効率を求められるため、洋服をじっくりと見て楽しむことができる環境が少なくなっている気がします。地方は、ショッピングセンターやアウトレットモールなどの商業施設が増えてきていますが、海外ブランドが参入し、同質化しています。リラックスできる時間を楽しんだり、空間そのものを楽しむ機会が少なくなっている今、地方だからこそできることを見直すべきだと思ったんです。
佐藤繊維では、1932年から約80年に渡り、自分たちで羊を飼いながら糸作りを行ってきました。先代が紡績を始める際、酒蔵だった建物を移築して、そこでスタートしました。その歴史を経てきた建物や環境を、新しい形で進化させたいとも考えていました。
ですから、「ギア」では、楽しい空間づくりにこだわりました。ビジネス視点で見た“売れる”商品ではなく、面白さを感じるものや、なかなか手に入らないもの、東北では見られないものを楽しんでいただきたい。リラックスした空間の中で、食事をしたり、お茶を飲んだり、ゆっくり時間を過ごしていただきたいと思いました。
――「ギア」というお店の名前には、どういう意味があるのでしょうか?
糸を作るとき、1つのモーターがたくさんのギアを返し、たくさんの機械を動かしています。1つのギアを動かすことによって、次のギアが稼働する。これは私たちのものづくりに共通しています。1つの繊維製品は、多くの技術やものづくりが関わっていて、そのどれか1つでも欠けたらいいものはできません。全員の力や思いを通して製品ができているんだという私たちの考えにも通じるということで、お店の名前を「ギア」にしました。
――世界各国の商品を揃えていますが、どういった視点でセレクトしていますか?
私たちのお店には、大きく分けて3つの世界観が存在しています。まずはヨーロッパ。ヨーロッパのものは、いずれも原料や丁寧なものづくりへのこだわりがあります。また、モードを作ってきた長い歴史があるだけに、世界の流行を引っ張っていく新しさと、クラシックな部分を持ち合わせています。洋服だけでなく、食器や家具なども揃えていますが、そんなヨーロッパのよさが伝えられるものを厳選し、きちんと取り揃えている店をつくりたいと思っています。
2つめは、アメリカのニューヨークやロサンゼルスに見られるような新しいライフスタイルです。アメリカのクラシックさや新しい文化、リラックスした空間なども表現しています。都会で働く男性女性たちのクールな要素も1つのスタイルとして取り入れています。
そして、日本ブランドのよさも取り込んでいます。洋服も雑貨も、メインとなる場所には日本のブランドを置いています。素材やものづくりにこだわりがあり、作品に対する思いやスピリッツが感じられるものであれば、世界的デザイナーから、まだ認知されていないような新人クリエイターの作品まで、こだわりなくセレクトしています。
もちろん、日本ブランドの中にも色々な世界感があったり、アメリカやヨーロッパの物の中にも、日本のテキスタイルや生地にこだわったブランドがあります。ですが、それぞれの価値観やものづくりを大切にしている点で共通しています。
(後半へ続く)