熊本大、難治性の乳がん再発のメカニズムを明らかに
2015年5月5日 12:45
熊本大学は、乳がんに対してホルモン治療を行なった後に、治療抵抗性を持つがんが再発する機構を解明した。ヒトの乳がん再発過程でエストロゲン受容体をつくるESR1遺伝子が高発現することに、新規の非コードRNA「エレノア」が関わっていることを発見した。この成果は、乳がんの新しい診断・治療法の確立につながることが期待されるという。
乳がんは女性がかかりやすいがんの第1位になっている。近年は、早期発見や治療法の改善などで生存率は改善しているが、再発したり転移したりする場合があることから、死亡数は増えているという課題がある。乳がんの発生を考える上では、「エストロゲン」という女性ホルモンと、エストロゲンが作用する際の細胞側の受け手としての「エストロゲン受容体(ER)」がポイントになる。
今回の研究では、エストロゲン受容体をつくるESR1遺伝子の変化に着目し、ヒトの乳がん細胞株(MCF7細胞など)を、エストロゲンを除去した条件で培養する実験を行った。その結果、エストロゲンに依存しない難治性のLTED細胞では、エストロゲン受容体とESR1メッセンジャーRNAの量が数倍に増加していることが分かった。
また、乳がん細胞の全てのRNAを調べてみたところ、もとの乳がん細胞に比べて、難治性細胞ではESR1遺伝子のみならず、その近くの非コード領域から大量のRNAが作られていることが分かり、非コードRNAをまとめて「エレノア」と名づけた。
さらに、難治性細胞に有効な薬剤を多数調べたところ、ポリフェノールの一種である「レスベラトロール」で処理すると、エレノアとエストロゲン受容体が速やかに減少して、細胞の増殖が停止することが分かった。つまり、レスベラトロールは、ホルモン療法が効きにくくなった乳がん細胞の増殖を阻害する可能性をもつことが示唆された。
今後は、今回の研究成果が、乳がんの新しい診断と治療法の開発に役立つと期待される。
なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「A cluster of non-coding RNAs activates the ESR1 locus during breast cancer adaptation」。