身体の位置によって、脳からの運動指令が変換されるメカニズムが明らかに
2015年5月1日 15:47
国立精神・神経医療研究センターの関和彦部長らは、霊長類における脊髄の神経細胞が脳からの運動指令を変換して、多くの手指の筋肉を制御しているメカニズムを明らかにした。
同じ目的を持った運動でも、運動を始める前の身体の位置によって異なった筋肉が使われる。例えば物体をつかむ時、右手の初期位置が物体の左にある場合は手首や肘の伸筋、右にある場合は屈筋という正反対の機能を持つ筋肉が使われている。しかし、どこで、どのように、無意識下の運動指令が変換されているのかについては、分かっていなかった。
今回の研究では、最新の光学技術などを併用して、脊髄の深い部位にもアレイ電極を埋め込む方法を確立し、麻酔したサルの脊髄に電気刺激を与えたときの手指の運動を調べた。その結果、筋肉の電気反応が、手の初期位置により大きく変化することを発見した。
さらに、麻酔したサルの脊髄と脳の信号を切断して同様の実験を行っても、この初期位置に依存した筋の電気的反応の変化が起こる確率は変わらず、脊髄刺激による初期位置に依存した筋の電気的反応の違いが、脳ではなく脊髄の中で作り出されていることが分かった。
この結果は、ヒトの無意識下の運動もこのような脊髄の運動指令の変換メカニズムを用いて制御されている可能性を示している。
今後は、本研究成果が、新たなリハビリテーション法の開発や、脳梗塞や脊髄損傷などによる運動失調の新たな治療法の確立に貢献することが期待される。
なお、この内容は「The Journal of Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Modulation of spinal motor output by initial arm postures in anesthetized monkeys」(腕の初期位置は脊髄からの運動出力に影響を与える)。