理研、棋士の脳から直観的判断のメカニズムを解明

2015年4月21日 12:24

 理化学研究所は21日、田中啓治チームリーダーらの研究チーム(脳科学総合研究センター認知機能表現研究チーム)が、脳内で行われるヒトの直観的な戦略決定のメカニズムを明らかにしたと発表した。将棋の棋士が次の手を決める際の脳の動きを、機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)で調べ、ヒトの直観的な戦略決定が、大脳の「帯状皮質」(※1)と呼ばれる領域を中心とするネットワークによって行われていることがわかった。

 複雑な状況の中で応答を迫られたとき、人はまず大まかな応答の分類(戦略)を決め、次にその戦略のもとで細部にわたる具体的な応答を決める。このような戦略決定は、具体的応答の分析を行わずに行うため、直観的と呼ぶことができる。しかし、直観的な戦略決定の脳メカニズムはこれまでまったく分かっていなかった。

 そこで研究チームは、攻めの手と守りの手の区別がはっきりしている将棋の特徴を活用し、与えられた盤面の状況によって攻めるべきか守るべきかを決定する戦略決定の脳メカニズムをfMRI法で調べた。脳活動の測定実験は、アマチュア三段、四段の高段者17名(平均年齢33歳の男性)を被験者にして行った。被験者には機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置の中で戦略決定課題(直観的思考課題)および具体手決定課題(コントロール課題)に答えてもらい、両者を比較した。

 その結果、直観的な攻めと守りの戦略決定が、一手ごとの分析を行って具体的な手を決定する脳の領域とは独立した、別の脳ネットワークで行われることを発見した。また、与えられた盤面における攻めと守りの棋士個人によって異なる主観的価値は、帯状皮質の後部と前部に分かれて表現され、これらの価値表現が「前頭前野背外側部」(※2)に伝えられて戦略決定がなされることが分かった。

 こうした直観的な判断の脳のメカニズムは、将棋以外の日常的な個人や集団による直観的な戦略決定にも、類似の脳ネットワークが使われている可能性があるという。また、攻めと守りの価値を計算するコンピュータープログラムが開発されれば、組織やグループの戦略決定の訓練の参考になると期待できるという。

 この研究は、富士通、富士通研究所、日本将棋連盟の協力を得て実施された。成果は、米国の科学雑誌『Nature Neuroscience』(5月1日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(4月20日付け:日本時間4月21日)に掲載される。論文タイトルは、「Neural encoding of opposing strategy values in anterior and posterior cingulate cortex」。

※1帯状皮質
大脳半球内側の正中に面した部分に広がる大脳領域。帯状溝と脳梁の間を占め、前後に長く伸びる。進化的に古い大脳領域であり、海馬、扁桃体、海馬傍回などとともに大脳辺縁系とも呼ばれる。

※2前頭前野背外側部
前頭葉の前方外側にある大脳領域。進化的に新しく、霊長類でよく発達している。一時的な記憶であるワーキングメモリーに重要であり、行動実行の規則や抽象的な意味が記憶され表現されている。
(記事:町田光・記事一覧を見る

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