アジアインフラ投資銀行(AIIB)は中国版ニューディール政策だ

2015年4月20日 08:01


*08:02JST アジアインフラ投資銀行(AIIB)は中国版ニューディール政策だ
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、57カ国の創設メンバーで発足することが決定した。日本はAIIBへの警戒感を露わにする米国と歩調を合わせ参加を見送った。米国は世界銀行やアジア開発銀行(ADB)重視、AIIBのガバナンスや中国主導への反発という姿勢で、同盟国に対し参加しないように要請していた。
 しかし、AIIBの問題は単に中国と米国のアジアにおける主導権争いという対立軸のなかだけで捉えるのは誤りだ。
 AIIBの問題は、日本ではあまり報道されなかったが、最近発表された中国の「新シルクロード(一帯一路)構想」とあわせて考える必要がある。「新シルクロード構想」とは、中国を起点に欧州に向けて陸路や海路でインフラ整備を進め、巨大な経済圏を構築するというものだ。
 2つの構想をあわせてみると、中国はAIIBで集めた巨額資金を「新シルクロード」を中心としたインフラ投資に投入しようという意図がはっきり分かる。これはつまり、AIIB+「新シルクロード構想」=中国版ニューディール政策ということなのである(ニューディール政策「新規まき直し政策」とは米国が世界恐慌のショックから立ち直るために、政府主導で大規模な公共工事と金融緩和を実施した政策である)。
 中国の経済成長は明らかに鈍化しつつある。国内総生産(GDP)の第1四半期の伸び率は前年同期比で7.0%と6年ぶりの低成長となった。約1000兆円のGDPで7.0%成長はまだ十分高い成長率だが、実際の中国の景況感はこれよりもかなり低い。中国のGDPの数値は正しい数値なのか疑う声も多く、実際の数値は7%を大きく割っているとの指摘もある。中国の過剰設備投資、過剰生産能力の問題は解消しておらず、成長鈍化により企業の倒産・デフォルトさらには不動産バブル崩壊などの負の連鎖が一気に噴出するおそれがあり、本当の成長率を知る中国指導部の危機感は想像に難くない。
 AIIB+「新シルクロード構想」は中国主導のインフラ投資で人為的に大きな需要を作り出し、中国の過剰生産能力を吸収し、経済成長を持続させようと意図されたものなのである(なお、中国はニューディール政策と同様に金融緩和策も同時に開始しているとみることができる)。中国はリーマン・ショック後の大規模な公共投資で同じようなことをしたが、今回中国政府が賢明なのは、全て自前でやろうとはせず、世界中から資金を集めつつ主導権を握って行う方法を採用したことである。これで他国の資金の導入でレバレッジをかけてより大きな事業を行うことが可能となったほか、米国のニューディール政策後に問題となったような、自国の政府債務が対GDP比で急膨張することを防ぐことができる。リーマン・ショック後の中国政府の経済政策(財政出動)は世界経済を支える要因となったが、今回は海外をも巻き込んだ乾坤一擲の政策ということができる。
 ともあれ、AIIB+「新シルクロード構想」はニューディール政策のように、歴史上のターニングポイントとなる政策になる「可能性」がある。また、世界で最も高い成長が期待できるアジアを中心にした大規模なプロジェクトであり、単に国際的というより全世界規模のプロジェクトといえる。なぜ、米国に最も近い同盟国イギリスが米国の反対を振りきってAIIBに参加したのか。それは経済的意義が東西対立軸の意味を超えてあまりにも大きいからだ。
 政治的な対立から、中国主導のプロジェクトだからという理由だけで頭から拒否するのは間違いだ。日本政府の認識は甘いと言わざるをえない。
 大規模なインフラ投資が実際に行われた場合、恩恵を受けるのはAIIBに参加した出資国の企業である。日本企業がAIIBが主導する巨大プロジェクトから閉め出され、一切参加できないとすれば、参加する出資国の企業との間で大きな格差が生じるであろう。最近中国の建設株などが暴騰しているのはことことを示唆している。
 日本がAIIBに参加したら数千億円の負担が生じるとか、日本人のお金が中国にいいように使われるという感情論も聞かれるが、純粋に上記の経済的意義と比較衡量して冷静に参加の是非を検討すべきだ。数千億円の出資をしたとしても、それが直ちに中国へのプレゼントとなり無駄金となるわけではなく、様々なしかも巨大なリターンを生む可能性があるのである。
 日本政府からはAIIBのガバナンスは不透明だといった声も聞かれるが、約50カ国ものいわば衆人環視のなか、例えば中国だけが利益を得、日本だけ一方的に損失を被るといったケースが発生するだろうか。中国以外に46カ国もの参加国があり、日本もそのなかで他国と協力して中国を牽制するといったことも可能であろう。
 日本と米国はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でいつ合意するともしれぬ交渉を延々と続けているが、AIIBでも立場に固執し後手に回っている。このまま行くと、経済的な損失だけではなく、世界経済を主導する「立場」も結局中国におびやかされることになるだろう。《YU》

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