理研、多動障害や社会行動異常に関わる分子機構を新たに発見

2015年4月15日 12:36

 理化学研究所の御子柴克彦チームリーダーらによる研究グループは、注意力や衝動性の制御に関わりを持つ脳内カテコールアミン量を制御する新たな分子機構を明らかにした。研究を進めることで、精神神経疾患の治療や創薬に貢献できる可能性があるという。

 私たちの気分や行動は、脳内で働くモノアミンと呼ばれる神経伝達物質に制御されており、特にドーパミンやノルアドレナリンといったカテコールアミンは注意力や衝動性の制御に関わっている。しかし、脳内のカテコールアミン量の恒常性を維持する機構は未解明な点が多い。

 今回の研究では、共免疫沈降法と質量分析法を使って、マウス脳組織サンプルの中から、細細胞内カルシウムチャネルの制御因子であるアービット(IRBIT)と相互作用する新しい分子を探索した。その結果、α型カルシウムカルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKIIα)を発見し、アービット添加量に応じてCaMKIIαの活性が顕著に抑制されることが明らかになった。

 また、野生型マウスとアービットを欠損させたマウスからそれぞれ培養した海馬神経細胞を解析したところ、細胞内においてもアービットの発現量に応じてCaMKIIαの活性が変化することが分かった。全身でアービットを欠損させたマウスを用いて行動解析したところ、アービット欠損マウスは、慣れている生活環境と新しい生活環境の両方で行動量が顕著に増加しており多動障害の傾向を示すこと、アービット欠損マウスは野生型マウスに比べて他のマウスへの接触回数と時間が増加することも明らかになった。

 これらの結果は、アービットが脳内でCaMKIIα活性を抑制することで、間接的にチロシンヒドロキシラーゼの活性を制御し、脳内で適正なカテコールアミン産生量を維持することに寄与していることを示唆している。

 今後は、ヒトにおけるアービットの変異と多動障害や社会行動の異常などの精神神経疾患の症状との関連を調べることで、これらの症状の治療および創薬などに関する重要な知見が得られると期待されている。

 なお、この内容は「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載された。

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