日本の省エネを縁の下で支える「トップランナー」とは

2015年4月8日 13:10

 桜が散ると、天気の良い日には早くも半袖姿の人を見かけるようになった。日本気象協会によると、今年2015年の夏は、偏西風の影響で高温傾向になるうえ、太平洋赤道域の海面水温が高くなることで大気全体の温度が上昇し、とくに関東から東海を中心に広い範囲で厳しい暑さが予想されている。

 猛暑となれば当然、エアコンの出番だ。一般社団法人日本冷凍空調工業会によると、日本国内における2014年度の業務用エアコンの出荷台数は80万1547台。2015年度も80万5374台が見込まれており、微増ながらも堅調に推移するとみられている。しかし、そのエアコン市場にとって、今年は大きな転機の年となりそうだ。

 その理由は2つある。一つは、4月1日に施工されたフロン排出抑制法。そして、もう一つは、2015年は業務用エアコンのトップランナー基準年ということだ。このため、空調機器メーカーは、より省エネ性能の高い製品の開発により、2015年4月から2016年3月末までに出荷するエアコンの加重平均で省エネの目標基準値を達成することが義務づけられる。日本の空調技術は世界でもトップレベルといわれるが、これによって日本製のエアコンはさらにハイレベルな省エネ性能をもつことになるだろう。

 ところで近頃、省エネを語る際に「トップランナー」という言葉を耳にする機会が増えた。「トップランナー」とは、2003年4月1日より施行された省エネ法に盛り込まれている政策の一つだ。家電やガスなどのエネルギーを消費する機器や自動車、住宅などの製造業者や事業者には、省エネ法によって製品のエネルギー使用効率の向上が努力義務として課されている。その基準値となるものが「トップランナー基準」だ。トップランナーの名の通り、基準値を策定する時点で、その市場に存在する最も省エネ性能が優れたものをベースに、達成目標年度と共に基準値が設定される。もしもこの基準値に満たない製品であるとみなされた場合、その製品の製造業者や事業者は、省エネ性能向上の対策を施すように国から勧告や命令を受けることになる。

 また、このトップランナー基準が策定されるのは、何も一般家庭に近いところにある製品だけではない。むしろ、エネルギー消費量の多いのは一般のユーザーの目には触れにくいところにこそある。例えば、変圧器などが良い例だ。

 普段、我々が何気なく使っている電気は、各発電所で作られて、送電線、変電所、配電線、引込み線などを通り、各家庭や工場やビルなどに届けられている。しかし、各発電所で作られた電気が、そのまま届いているわけではない。実は、発電所で作られた電気は1万2千ボルトから2万3千ボルト程度の電圧だが、これをこのまま送電すると電気抵抗によるロスが生じてしまう。それを防いで効率よく電気を送るために、変電所で約27万5000ボルト~50万ボルトまでの高電圧に変電して送り出しているのだ。その後、超高圧変電所、一次変電所、二次変電所、中間変電所、配電用変電所、柱上変圧器などを通して徐々に電圧が下げられ、それぞれの目的地で使いやすい電圧にされて届けられる。その際に、電気を中継しているのが電源トランス、つまり「変圧器」だ。電気エネルギーは産業や生活になくてはならないものだが、それを支えているのが受配電用変圧器であり、すべての電気はこれを通る。ある意味、エアコンなどの家電製品や自動車などよりも、省エネ性能が最も求められる製品ともいえる。

 変圧器のトップランナー化は、2006年の油入変圧器に始まり、翌07年にはモールド変圧器が導入、2014年度からは省エネ法の改正に基づいて、さらに省エネ性能を大幅に向上させた「トップランナー変圧器2014」への切り替えが進んでいる。これを開発しているのが、株式会社ダイヘン<6622>や日立産機システムなどの高度な技術を持った日本メーカーだが、残念ながら製品の性質上、一般的な認知度は低い。まさに日本のエネルギー事情を支える縁の下の力持ちといったところだ。

 とはいえ、いくら日本に「トップランナー基準」に沿った省エネ性能の高い変圧器や電気製品があったとしても、エネルギーの無駄遣いをしていいということではない。省エネの向上とともに、日常生活での節電も世界のトップランナーを目指したいものだ。(編集担当:藤原伊織)

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