がんの早期発見・検査簡略化につながるか 線虫が尿の臭いでがん患者を識別
2015年3月26日 10:47
九州大学理学部・広津崇亮(ひろつ たかあき)助教授、伊万里有田共立病院・園田英人(そのだ ひでと)外科部長らが中心となっている研究グループが、新たながん患者の識別方法について発表した。
その識別方法とは、「C.elegans(カエノラブディティス・エレガンス)」と呼ばれる線虫を利用したものだ。この線虫は、体長約1ミリで透明な体を持ち、実験用モデル生物としてよく利用されている。研究グループの発表によると、この線虫に人間の尿の臭いを嗅がせ、その反応でがんの有無を識別できるという。線虫は、健康な人の尿からは逃げ、がん患者の尿には寄り付く性質が確認されている。これまでの実験では、95%以上の正確さで識別結果が出ており、実用化への期待が膨らんでいる。
簡単な尿採取だけで行えること、線虫自体の飼育も容易なことから、がん検査の正確性向上と簡略化、安価化が期待されている。検査1回にかかる費用は百円から数百円程度で、約1時間半で結果が出るという。研究グループは日立製作所〈6501〉などと協力し、2019年の実用化を目指している。
しかし、まだハードルもある。現状では、早期の段階でも全てのがんを検出できる反面、がんの種類を特定することはまだ難しいようだ。研究グループでは、特定のがんに反応するよう、線虫の吸引行動に関し、更なる実験が行われる予定だ。
国立がん研究センターの統計によると、1年間で新たにがんにかかった人の数は、2010年時点で推定80万人とされている。がんによる死亡者数は年間で約36万人、生涯でがんにかかる確率は男性60%、女性45%だ。
多くのがんは、治療後に再発や転移が5年間見つからなければ、乳がんなどを除き、ほとんどの場合治癒と考えられる。そのため、発見後の5年生存率が非常に重要となっている。早期発見であるステージⅠの場合、5年生存率は96%、ステージⅡは80%、ステージⅢは46%、ステージⅣは16%と言われている。いかに早期の発見、検査が重要であるかが分かる。
今回の発表された新たな識別方法が実用化されれば、より確実で安価ながんの早期発見が可能となる。今後の研究と実用化への動きに注目が集まる。(編集担当:久保田雄城)