ソユーズ2.1aロケット、軍事衛星バールスMの打ち上げに成功

2015年2月28日 17:30

 ロシア航空宇宙防衛部隊(VVKO)は2月27日、軍事衛星「バールスM」を搭載した「ソユーズ2.1a」ロケットの打ち上げに成功した。バールスMの正体は謎に包まれているが、主に軍事目的で使用するための地図を作ることを目的とした衛星であるといわれている。

 ロケットはモスクワ時間2015年2月27日14時01分(日本時間2015年2月27日20時01分)、ロシア・アルハーンゲリスク州にあるプレセーツク宇宙基地の43/4発射台から離昇した。打ち上げ後VVKOは、衛星が予定通りの軌道に乗り、地上局との通信も確立できたと発表している。

 今回打ち上げられた衛星について、ロシアは公式に名前も目的も一切明らかにしていないが、多くの専門家によれば、バールスMと名付けられた衛星であると推測されている。バールスMはスパイ衛星の一種で、広い範囲を撮影し、主に軍事目的に使うことを目的とした地球の詳細な地図を作るための衛星であるとされる。バールスとは、ユキヒョウを意味するロシア語である。

 また、打ち上げ前に発行されたNOTAMと呼ばれる航空情報によれば、ロケットから分離された部品と思われる物体が、白海とバレンツ海に落下することが示されている。この発射方向は地球を南北に回る軌道(極軌道)にロケットを打ち上げた際の飛行経路と一致している。極軌道は地球観測に適した軌道であり、今回打ち上げられた衛星が地球の観測を目的としたものであるという説と合致する。

 ソヴィエト連邦では1981年から2005年にかけて、「カメータ」という地図作成衛星を打ち上げていた。カメータは、ガガーリンが搭乗したヴォストーク宇宙船から派生した衛星のひとつで、地表を撮影したフィルムをカプセルで回収する仕組みをしている。このような古めかしい衛星を2000年代まで使った理由には、カプセル回収式の方が信頼性が高かったことや、撮影した画像を電送する方式の衛星の開発に手間取ったことなどがあるという。

 1990年代後半、もしくは2000年ごろから、カメータを代替し、なおかつデータを電送できる新世代の衛星「バールス」を開発する計画が始まったとされるが、予算と技術の問題から、2000年代の初めごろに中止され、その後仕切り直しとしてバールスMの開発計画が立ち上げられた。当初打ち上げは2012年ごろに予定されていたとされるが、バールスMの開発も難航し、今日まで遅れることになった。

 バールスMの製造はRKTsプラグリェース社が全体の取りまとめを担当し、「カラート」と呼ばれるカメラ・システムはレニングラート光学器械合同(LOMO)が手掛けたとされる。 衛星の寸法や打ち上げ時の質量などは不明で、ソユーズ2.1aの打ち上げ能力からして4,500kg以下ということしかわかっていない。なお、ロシアが近年開発した偵察衛星や民間向けの地球観測衛星の多くは、ヤンターリという衛星バスを用いているが、バールスMはまったく異なる新しい設計をしているという説もある。

 打ち上げに使われたソユーズ2.1aロケットは、ロシアのソユーズUやソユーズFGの後継機として開発されたソユーズ2ロケット・シリーズのひとつである。ソユーズ2では、旧型機からエンジンの改良や、制御システムなどの電子機器の全面的な近代化などが施されている。特に後者については、機器の軽量化と、飛行プロファイルの最適化が可能になったこと、打ち上げ能力の向上につながっている。またウクライナなどから買っていた部品を無くし、ロシア製の部品のみで造られている点も大きな特徴として挙げられる。

 ソユーズ2シリーズはソユーズ2.1aとソユーズ2.1b、そしてソユーズ2.1vの大きく3種類があり、まず最初にソユーズ2.1aがデビューした。ソユーズ2.1aの1号機は2004年11月8日にサブオービタル(軌道に乗らない)飛行での試験を実施し、2006年10月19日の2号機で、初の人工衛星を搭載した打ち上げに成功した。それ以来、ロシアの通信衛星や航法衛星、偵察衛星などの打ち上げに使用されている。ソユーズ2.1aは今回を含めて18機が打ち上げられ、2009年に予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は、比較的安定した打ち上げを続けている。

 ソユーズ2.1bは、ソユーズ2.1aの第3段により高性能なロケットエンジンを装備し、打ち上げ能力を向上させた機体で、2006年から運用に入っている。これまでに16機が打ち上げられているが、2011年には、まさにその新しい第3段エンジンが原因で打ち上げに失敗している。

 またフランスのアリアンスペース社も、ソユーズ2を輸入して運用しており、アリアン版のソユーズ2.1aはソユーズST-A、ソユーズ2.1bはソユーズST-Bと呼ばれている。STとは、同機が装備するST型と名付けられたロケットの直径よりも一回りほど太いフェアリングに由来している。両機を合わせて、これまでに計10機が打ち上げられている。

 つまりソユーズ2シリーズは今日までに、計44機が打ち上げられていることになる(ただし第1段がまったく異なるソユーズ2.1vは含まない)。

■С космодрома Плесецк успешно стартовал «Союз-2.1а» с военным спутником : Министерство обороны Российской Федерации
http://structure.mil.ru/structure/forces/cosmic/news/more.htm?id=12009159@egNews

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