国立循環器病研究センター、心臓ホルモンによるがん転移予防効果のメカニズムを解明

2015年2月25日 10:55

 国立循環器病研究センターは24日、同センターの研究グループが、心臓から分泌されるホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が、血管を保護することによって、様々な種類のがんの転移を予防・抑制する詳細なメカニズムについて明らかにしたと発表した。

 ANPのがん転移予防・抑制のメカニズムを解明したのは、同研究所の野尻崇氏(生化学部ペプチド創薬研究室長)らの研究グループと、大阪大学呼吸器外科奥村明之進教授らとの共同研究。ANPは、1984年に寒川賢治、松尾壽之(当センター研究所名誉所長)らによって発見された心臓ホルモンであり、現在は心不全に対する治療薬として臨床で使用されている。

 今回の研究では、肺がん手術時のANP投与による術後再発抑制効果の追跡調査を行った結果、本来は合併症予防の為に投与されたANP群(手術+ANP群)は、手術単独群(対照群)と比較して術後2年無再発生存率が良好な成績であったことが示された。さらに研究グループはマウスを使った実験で、マウス悪性黒色腫(がんの一種)を用いて、マウスに移植した肺転移モデルを作製し、対照群とANP投与群で比較したところ、ANP投与群で肺転移が有意に少ないことを確認した。

 その他のマウス実験の成果といくつかの基礎研究のデータを分析することで、ANPは炎症によって惹起される血管のE-セレクチンの発現を抑制することにより、遊離がん細胞が血管へ接着することを防ぎ、結果的にがんの術後再発・転移を抑制していると考えられるとした。

 この研究の成果により、肺がん手術(500症例)を対象とした全国規模での多施設臨床研究(JANP study;国循が主導)を開始する予定だという。参加予定施設は、大阪大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、北海道大学病院、山形大学医学部附属病院、神戸大学医学部附属病院、国立病院機構刀根山病院、大阪府立成人病センター、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター、山形県立中央病院の9施設。

 研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America』オンライン版に2月24日以降1週間以内に掲載予定。(記事:町田光・記事一覧を見る

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