【小倉正男の経済羅針盤】GDP底入れ=賃上げが景気の行方を決定

2015年2月23日 12:11

■個人消費0.3%増、消費税再増税は見送って正解

 2014年10~12月のGDP(国内総生産)速報値は、実質で前期比0.6%増(年率で2.2%増)。2014年4月の消費税増税後では初めてのプラス成長、3四半期ぶりプラス成長転換である。

 年率2.2%増の成長率は、市場予測を下回ったものだった。ただ、まがりなりにも消費税増税の影響を克服して景気の「底入れ」を確認した格好である。

 だが、力強さはないな――、というのが率直な印象だ。

 昨年末、消費税10%への再増税を見送った判断は正解だったのではないか。

 もっとも「力強さ」を求めるのは無理があるかもしれない。

 GDPの58%を占める個人消費は0.3%増、前期の2014年7~9月の0.3%増と同様の成長率である。電車のなかで見ていても、かなりの年齢層の人たちを含めて大半がスマホ、タブレットPCなどを使っている――。この「通信費」だけでも大変な消費である。

 人々が消費をしていないわけではない。増税々にもかかわらず、ほしいモノ・サービスはなんとか限界までおカネを使っている。

 これまでにない新しくて魅力のあるモノ・サービスが出なければ消費は上昇しない。春節で日本に旅行している中国人のような「爆買い消費」は期待できない。

■設備投資&住宅投資は底ばい、外需が引っ張り輸出は増加

 設備投資は0.1%増と低迷――。2014年4月の消費税増税後に大きく低下したが、そのまま底ばい状態だ。設備投資は、個人消費の後追い指標の面がある。個人消費が上向かないと持ち上がらない。

 住宅投資は、駆け込み需要の反動に直撃され、消費税増税後は急激に落下した分野だ。この住宅投資もマイナス1.2%と底から持ち上がらないままである。

 相続税増税で、その節税から「家族信託」といった新需要が住宅・不動産に向くという見方があるが、本格化はこれから。住宅投資が盛り上がれば、その後にクルマ、家電製品に需要が広がる。住宅投資を呼び込む刺激策が待たれる。

 貿易では輸出2.7%増、輸入1.3%増。円安の寄与で輸出が増加、原油大幅安で輸入金額が抑えられた。

 輸出は円安による支援でようやく右肩上がりになってきた。円安は「日銀バズーカ」第2弾、つまりは金融量的質的緩和の追加措置によってもたらされたものにほかならない。

■賃金アップ=経済界は「守銭奴」から変われるか

 GDPの推移からいえるのは、インフレの気配がなかなか見えないことだ。 「日銀バズーカ」、すなわち異例の金融量的質的緩和が行われ、円安となり、しかも2014年夏までは1バーレル=100ドル台原油だった。どこからみてもインフレの環境がつくられているのだが、そうはなっていない。

 相当な消費をしているのだが、供給力も膨大だ。となれば、やはり賃金・報酬のアップが2015年のGDPを決めることになる。安倍内閣の要請に応じて、経済界はベースアップに一定応じる姿勢――。

 デフレ・マインドを克服するのは賃金アップしかない。しかし、麻生太郎・副総理の「守銭奴」発言もあったが、企業の利益剰余金(内部留保)貯め込みは簡単には変わらない。

 GDPの右肩上がりを支えるのは、賃金の右肩上がりを実現することが基本となる。

 賃金が上がらない、あるいは下がっているのに地方税や健康保険などが重たくのしかかる――。それでは、消費や住宅投資などにおカネが廻るわけがない。

 この春の賃上げの推移が、GDPの行方=日本の景気の先行きを決めることになる。

(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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