2020年、ゼロエネルギー住宅普及のカギを握る燃料電池
2015年2月3日 21:53
東京五輪大会の開催が決定してから「2020年」という文字を見聞きする機会が増えたが、2020年は東京五輪だけでなく、日本の住宅や日本人の暮らしにとっても大きな飛躍の年になりそうだ。
現在、日本で消費されるエネルギーの約3分の1は家庭部門が占める。2010年に策定した「エネルギー基本計画」の中で、「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の実現を目指す」と掲げている。2013年に閣議決定された「日本再興戦略」の重要な柱の一つ「クリーン・経済的なエネルギー需給の実現」の中でも、2020年は「省エネ基準の義務化」の目標年として設定されている。
ZEHとは、1年間のエネルギー消費量が正味(ネット)でゼロである住宅のことだ。住宅の断熱性能を高め、LEDなどの省エネ設備で、まず消費エネルギー量を削減し、さらに太陽光発電などによる創エネで差し引き「ゼロ」にするという仕組みだ。
太陽光発電などの再生可能エネルギーの買取制度など、家庭の省エネ・創エネを促す制度を政府や自治体が導入したこと、さらには東日本大震災の発生以降、電力需給逼迫に対する懸念と関心が全国的に高まったことなどを背景に、ZEHの導入は加速し、追い風が吹いている。
ZEHを実現するためには、消費エネルギー量に見合うエネルギーを創り出すことが必要となる。そこで注目されているのが家庭用燃料電池「エネファーム」だ。
「エネファーム」はガスから取り出した水素と空気中の酸素を反応させて発電するシステムで、発電時の排熱は無駄なく給湯に利用することができる上、自宅で発電をするため、送電ロスがほぼないのが特長で、日本が世界に先行する技術が詰め込まれている。
東京ガス<9531>は、2015年1月9日までの累計販売台数が4万台となったと発表したが、普及には、新築時にエンドユーザーと直に接する住宅メーカーが大きな役割を担う。各住宅メーカーもこぞってエネファームの導入に乗りだしているが、中でも導入実績で圧倒的に他を凌ぐのが、積水ハウス<1928>だ。同社は早くから各メーカーやガス供給会社との協力体制を構築し、積極的に「エネファーム」の導入を進め、戸建住宅の53%に搭載し、2014年7月までの累計で約3万棟に達する。
また、同社のゼロエネルギー住宅「グリーンファースト ゼロ」は、太陽光発電と「エネファーム」によるダブル発電を推奨し、電気とガスのエネルギーのベストミックスにより「エネルギーゼロ」を実現するという明快なメッセージを打ち出している。ZEHで求められる基準をクリアするためには、太陽光発電だけで必要な発電量を確保すると屋根形状も単調なものになりがちで、屋根面積が小さな都市部の住宅や3階建では、大容量の太陽光発電の設置は困難だ。同社は「エネファーム」を組み合わせて発電量を確保することで、様々な敷地、プランへの対応力や「家らしい」外観デザインにもこだわった。また、燃料電池は夜間も発電でき、電気とガスの両方を活用することは、災害時への備えの観点からも有効だ。
「グリーンファースト ゼロ」は、政府目標を先取りし、住宅業界初のZEHの普及を目指す住宅商品として、平成26年度「省エネ大賞」審査委員会特別賞を受賞した。既に新築住宅の約60%を占め、2014年度65%、2015年度70%を目標に掲げてZEHのさらなる普及を目指している。
太陽光発電や「エネファーム」、これらを制御するHEMSなど、その必要性や将来性には大きな魅力を感じていても、その導入費用に二の足を踏んでしまう人も少なくないだろう。しかし、ZEHには普及を後押しするための補助金があったり、光熱費などのランニングコストの抑制で恩恵を受けることができる。また、世界に先駆けて2020年の快適な生活を先取りできるのがメリットと言える。
2020年、東京五輪の開催により、日本は否応なしに世界の人々から大きな注目を浴びることになる。日本の伝統文化やポップカルチャー、日本食などはもちろんのこと、未曾有の震災経験から学んだ日本人のエネルギーに対する意識や取り組みも注目されるに違いない。世界的に広がりを見せる低炭素社会の実現に向けて、日本がそのトップランナーでありたいものだ。(編集担当:藤原伊織)