理研、ヒトES細胞から小脳の神経組織への分化誘導に成功
2015年1月31日 19:08
理化学研究所は30日、ヒトES細胞(胚性幹細胞)を小脳の神経組織へと、高い効率で選択的に分化誘導させることに成功したと発表した。今後、脳神経系疾患に対する発症原因の究明や、治療法開発などにつながることが期待できるという。
ヒトES細胞から小脳の神経組織への分化誘導に成功したのは、多細胞システム形成研究センター器官発生研究チームの六車恵子専門職研究員を中心とする研究チームで、成果は米国の科学雑誌『Cell Reports』オンライン版(1月29日付け:日本時間1月30日)に掲載される。
中枢神経系(脳)は、一度損傷するとその機能の修復は非常に困難だ。小脳は緻密な運動の制御や学習などをつかさどるため、その機能が障害を受けると小脳性失調症が起こり、日常生活に欠かせないさまざまな運動機能に支障が生じる。
研究チームは、以前の研究で多能性幹細胞を効率良く分化できる「SFEBq法(無血清凝集浮遊培養法)」という3次元浮遊培養法を開発し、胚組織の発生を試験管内で自己組織化により再現することで、マウスES細胞から、小脳の主要な神経細胞で医学的にも重要なプルキンエ細胞への分化誘導に成功している。
今回、研究チームはマウスで成功した培養法をヒトES細胞に応用し、プルキンエ細胞の効率的な試験管内での培養法の開発に挑んだ。培養条件を最適化し、ヒトES細胞から分化したプルキンエ細胞前駆細胞を長期間培養することによって、大きな細胞体と樹状突起の伸展を確認。電気生理学的解析でも、この細胞固有の神経活動が測定でき、形態的にも機能的にも生体と非常に良く似たプルキンエ細胞であることを確認した。
また、プルキンエ細胞と顆粒細胞を同一の細胞塊内で分化させ、自己組織化によって脳の神経組織をつくるように培養条件をさらに検討したところ、これらがヒトの妊娠第1三半期に相当する小脳皮質構造を形成することを示した。
神経変性疾患の1つである脊髄小脳変性症は小脳の神経細胞の変性による細胞死が徐々に起こり、その数が著しく減少する病気。研究チームでは、患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)からプルキンエ細胞への分化誘導にも成功しており、脊髄小脳変性症の発症原因の究明や治療法開発、創薬などの研究が加速すると期待できるという。
将来的にはヒトiPS細胞をさまざまな脳神経組織へと分化させることで、種々の脳神経系疾患に対する治療法開発への応用につながることが期待できるという。(記事:町田光・記事一覧を見る)