【小倉正男の経済羅針盤】「統合通貨ユーロ」というジレンマ

2015年1月26日 13:11

■ECBのギリシャ国債購入の決断で当面の危機を超えたが

 ユーロ圏経済の危機が長引いている。

 今回のギリシャ政局の混迷に端を発した危機は、ECB(ヨーロッパ中央銀行)が量的金融緩和に踏み込むことでとりあえず危機を乗り越えた。

 だが、先々、ユーロ圏経済、すなわちEUがこの危機をどう克服していくのかは「不確実性」というか、見えないというしかない。

 ECBの決断、すなわちECBがギリシャ国債を買い入れるということは、昨年11月あたりから予測されてきた。しかし、EU内ではドイツなどはこれに反対――。ECBとしては、追い込まれての決断、ギリシャが財政再建の公約を守る、ということを条件にギリシャ国債を購入することを決めた。

 ギリシャの「構造調整」「構造改革」を進めれば、公務員・公務員給料の削減、年金の削減などで当然のことデフレが進行する。「まず財政赤字の削減を図れ」、というドイツの原理原則に沿った理論・やり方は、ギリシャ経済を極限まで低迷させた。

 もともと我慢強いとはいえない(あるいは約束などについてもややアバウトといわれる)ギリシャからは悲鳴が上がる――。

 しかし、デフレだから量的金融緩和を実施するでは、「構造調整」「構造改革」の手が緩められることを意味する――。ただ、原理原則にこだわるドイツも、現実に進行する事態にECBの量的金融緩和を大枠で「容認」した格好になったのではないか。

■「統合通貨ユーロ」という護送船団法式

 もとをただせば、ユーロ圏経済の危機は、2009年に隠蔽されていたギリシャ財政赤字が露呈し、ギリシャ国債が大暴落したことに始まる。2010年にはポルトガル、スペイン、イタリアなどの国債にも不安が広がった。「ヨーロッパ・ソブリン危機」(債務危機)が騒がれたものである。

 これが折に触れて、ぶり返している。EUは、ドイツのように「構造調整」「構造改革」の原理原則を頑として唱える国が主導しているのに危機が何度も繰り返されている。これは、つまりは根本的な「解決」が難航しているということになりかねない。

 問題は、EUの統合された共通通貨制、すなわち「統合通貨ユーロ」にあるのでないか。  ドイツにとっては、ユーロは割安である。ギリシャにとっては、ユーロは割高になる――。

 EU域内は、通貨が統合されている。

 かつてならばドイツ・マルクとギリシャ・ドラクマは為替の変動で調整が進められた。「強い通貨」なら市場の信任が高まるが、「弱い通貨」なら紙くずのように信任がなくなる。

 そうした為替調整が機能しないというのか、いわば、「護送船団方式」になっているのではないか。ここにユーロ圏経済の危機が、なかなか克服されずに長引くことになっている問題があるのではないか。

■「日本化」、いや「EU化」の先送り――どう克服するのか

 ドイツにとっては、ユーロは割安でEU域外との貿易では有利になる――。一方のギリシャは、観光などが主力産業だが、ユーロはかなり割高となり、国外の旅行者を呼び込むには不利になる。

 EUからギリシャに補助金が出るにしても、出すほうも受け取るほうも、やや面白くない雰囲気があるという面がある。

 ギリシャの財政赤字隠蔽による国債大暴落に端を発した金融危機をECBが尻拭いするでは、当事者意識が希薄化される面もあるのではないか。

 結局、収まるべき落としどころがない――。問題先送りでは「日本化」というタームが、悪い意味で使われてきた。「日本化」=「賢くない問題解決法」といったタームだ。だが、現状は「日本化」と同様な意味で「EU化」による先送りになるしかないのだろうか。

 ヨーロッパは、20世紀の二度にわたる世界大戦で、全域が主力の戦場となり惨禍をきわめた。EUが結成され、統合された通貨ユーロをつくってきたのは、三度目の世界大戦をなんとしても避けるためである。EU=ユーロが、いまの試練をどう克服するのか――、賢い解決を待つしかない。

(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』(PHP研究所)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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